
充電待ち4時間、熱波で効率低下も インフラ投資の質が問われる局面に
タイの国民的行事であるソンクラン(タイ正月)の帰省ラッシュがピークを迎えた2026年4月13日、急速に普及した電気自動車(EV)が、地方への長距離移動において過去最大級の試練に直面した。充電スタンドでの数時間に及ぶ待機列や、酷暑によるバッテリー効率の低下といったトラブルが相次ぎ、政府の「EVハブ」構想に対するインフラ整備の遅れが鮮明となっている。
■ 「充電難民」が生んだハイウェイの混乱
「3箇所回ったが、どこも5台以上の待ち。1台1時間の充電を考えれば絶望的だった」。バンコクから東北部コラート(ナコンラチャシマ)へ帰省した男性(38)は、幹線道路沿いのサービスエリアでの惨状を振り返る。
タイ陸運局の統計によれば、2026年初頭のEV登録台数は前年比で爆発的に増加したが、主要幹線道路に設置された急速充電器(DCチャージャー)の増設ペースはそれに追いついていない。特に、帰省客が集中する国道2号線(フレンドシップ・ハイウェイ)や国道4号線では、充電のために高速道路を下り、周辺の商業施設へ向かう「充電難民」が続出し、それが周辺道路のさらなる渋滞を誘発する悪循環に陥った。
■ 酷暑が招く「計算外」の電力消費
2026年のタイの4月は、例年を上回る記録的な熱波に見舞われている。この「熱」がEVユーザーにとって二重の苦しみとなった。
- 電費の悪化: 外気温が40度を超えるなか、車内のエアコンをフル稼働させることで、通常時よりもバッテリー消費が大幅に加速。当初の航続距離計画が狂う車両が相次いだ。
- 充電速度の低下: バッテリー本体の温度上昇を防ぐための保護機能が働き、急速充電器に接続しても本来の出力を得られない「熱だれ」現象が発生。1台あたりの滞在時間を長引かせる要因となった。
さらに、充電スタンドでの「順番待ち」を巡るトラブルも表面化している。予約システムの不具合や、充電完了後も車両を放置するマナー違反がSNSで拡散され、社会問題へと発展しつつある。
■ 問われる「EV 3.5」施策の持続性
タイ政府は「EV 3.5」などの振興策を通じ、購入補助金や税制優遇で市場を牽引してきた。しかし、今回のソンクランでの混乱は、補助金による「車両普及」に偏重した政策の限界を突きつけている。
今後は、単なる設置台数の増加だけでなく、以下の「質の高いインフラ投資」が不可欠となる。
- 高出力器の普及: 現在主流の50kW〜100kW級から、滞在時間を短縮できる150kW以上の超急速充電器へのリプレース。
- グリッド(送電網)の強化: 地方のスタンドにおける電力供給能力の底上げ。
- スマート・キューイング(予約管理): 全メーカー共通で利用できる、高精度なリアルタイム予約・決済システムの統合。
■ 日本勢には「信頼性」で反転の好機か
EV市場で先行する中国メーカーがこうしたインフラの課題に直面するなか、ハイブリッド車(HEV)を主軸に据えるトヨタ自動車やホンダなどの日本勢は、長距離移動における「信頼性と航続距離の安心感」を改めて強調している。
タイの消費者は今回の経験を経て、単なる車両価格の安さだけでなく、故障時のサポートやエネルギー補給の利便性を含めた「トータル・コスト」を再評価し始めている。2026年後半、タイのEV市場は「熱狂的な普及期」を終え、インフラという現実と向き合う「成熟期」へと移行する見通しだ。