
タイの交通インフラ史に残る巨大プロジェクトが、事実上の終幕を迎えた。財閥CP(チャロン・ポカパン)グループ側は9日、ドンムアン・スワンナプーム・ウタパオの3空港を結ぶ高速鉄道事業について、タイ国鉄(SRT)に契約終了を求める書面を提出した。2018年の入札から8年、着工の見通しが立たないまま迷走を続けた「世紀の事業」は、ついに白紙へと針を戻した。
同事業は東部経済回廊(EEC)構想の目玉として計画された官民連携(PPP)事業で、CP側企業連合が落札。しかし用地引き渡し、コロナ禍による旅客需要の激変、資金調達条件や契約修正をめぐる交渉が長期化し、本格着工に至らなかった。タイメディアは「タイ国民が時間と期待を失った8年」と総括している。
契約終了の申し入れを受け、国鉄側は法的手続きと影響の精査に入った。焦点は既存の空港連絡鉄道「エアポート・レール・リンク」の運営継続だ。同路線は事業パッケージの一部としてCP側が運営を担ってきた経緯があり、国鉄は利用者への影響を避けるための運営引き継ぎ計画の検討を始めた。違約金や投資回収をめぐる両者の協議も今後の火種となる。
経済界からは「EEC全体の信頼性に関わる」と懸念の声が上がる一方、「実現性を欠いた計画を延命させるより、仕切り直した方が健全だ」との見方もある。ウタパオ空港の拡張や周辺開発など、高速鉄道を前提としてきた関連事業の再設計は避けられない。
政府とEEC事務局は今後、事業スキームの再構築か、規模を縮小した代替案かの選択を迫られる。8年分の教訓を次の計画にどう生かすのか。タイの官民連携事業の試金石として、内外の投資家が行方を注視している。