タイの農業経済を支えてきた「果物の王様」ドリアンが、かつてない構造不況の危機に直面している。長年、中国市場の旺盛な需要を背景に右肩上がりを続けてきた市場価格だが、2026年シーズンは一転して下落圧力にさらされている。中国資本によるラオスでの大規模栽培の本格化や、中国国内の景気低迷に伴う「高級果物離れ」が、タイの基幹産業の足元を揺さぶっている。

中国による「脱タイ」加速、周辺国でのプランテーション拡大
タイ産ドリアンの最大の脅威となっているのが、中国資本による供給網の多角化だ。ラオスでは近年、中泰鉄道の沿線を中心に中国企業による大規模なドリアン・プランテーションが整備され、今シーズンから本格的な収穫・輸出が始まった。
これらのラオス産は、関税メリットと鉄道輸送の利便性を武器に、タイ産のシェアを侵食しつつある。さらに、ベトナム産やマレーシア産との価格競争も激化しており、これまで「タイ産=最高級」として君臨してきたブランド力が相対化され始めている。
タイ国内では「15%増産」の供給過剰リスク
一方で、タイ国内の供給能力はピークに達している。農業経済局(OAE)の最新データによると、2026年度の国内ドリアン作付面積は約139万ライ(約22万ヘクタール)と前年比で約10%増加した。生産量は前年比15.7%増の約178万トンに達する見通しだ。
輸出が滞れば、この膨大な在庫が国内市場に流れ込むことになる。すでに一部の卸売市場では、過剰在庫による価格崩落の兆しが見えており、農家の収益悪化が地方経済の冷え込みに直結する懸念が高まっている。
2026年ドリアン市場の変容(予測と分析)
| 項目 | 2025年度(実績) | 2026年度(予測・現状) | 主な変動要因 |
| タイ国内生産量 | 約154万トン | 約178万トン | 過去の植樹ラッシュによる収穫期到達 |
| 中国向け輸出 | 堅調な伸び | 伸び悩み・価格下落 | 中国景気後退による「節約志向」 |
| 競合国勢力 | タイの一強状態 | ラオス・ベトナムの台頭 | 中国資本による周辺国での生産拡大 |
| 小売価格(目安) | 高止まり | 10〜20%の下落傾向 | 国内供給過剰とデフレ圧力 |
中国の「高級果物離れ」がもたらすデフレの波
価格を押し下げている決定的な要因は、最大の顧客である中国の経済情勢だ。不動産不況や若年層の失業率高止まりを背景に、中国の消費者はかつてのような「贅沢品としてのドリアン」に財布を閉じ始めている。
かつては「1玉数千円」でも飛ぶように売れた高級品種が、今や「値ごろ感」を重視する大衆商品へと変質しつつある。この消費行動の変化により、タイの輸出業者は価格引き下げを余儀なくされており、それがドリアン・バブルの崩壊を予感させている。