どこの誰かも分からない人に、手違いで死亡届を出されてしまい、25年もの間、「死んだ人」として生きる羽目になってしまったタイ人男性が7月26日、タイ政府から身分証明証(国民IDカード)を再発給してもらい「生まれ変わったみたいだ」と涙した。
タイ中部ナコンサワン県のオンアートさん(男性、65)は、2013年末に役所で身分証明証の更新手続きをしたところ、オンアートさんの死亡証明書が1997年に発給されているとの理由で手続きを拒否された。
役所の説明では、死亡証明証は、チュチャートという男性が1997年11月5日にノンタブリ県で申請したもので、オンアートさんが肺炎で死亡したとする死亡診断書を同県内の病院が発行し、葬儀が都内プラカノン区のマハーブット寺院で1997年11月6日に催されているという。
チュチャートという男性に心当たりのないオンアートさんは、ノンタブリ県に対し、死亡証明証の取り消しを求めたものの、「対応中なので待ってくれ」という官僚主義的な決まり文句が返ってくるだけで繰り返し要請しても進展がなかったという。
役所と個人でやりとりしても何年たっても埒がないため、オンアートさんはナコンサワン県の支援機関に調査を要請。その効果があってか、同県ムアン郡の郡長がオンアートさんの自宅で家族へのインタビューなど事実関係の調査を実施。オンアートさんが実在する証拠資料を集め、ノンタブリー県に提出した。
その後のノンタブリ県の調査により、オンアートさんの死亡証明証を申請したチュチャートという男性は役所の事務員であることや、実際に死亡していたのはオンアートさんと同姓同名の別の人物だったことなどが明らかになった。
当時、死亡証明証の申請書には姓名しか記載されず、身分証明証番号は記載されていなかったことから、死人と同姓同名のオンアートさんが誤って事務処理されてしまったという。
これに対し、チュチャートさんは純粋な事務手続き上のミスで悪気はなかったとオンアートさんに謝罪した。
これを受け、7月25日、ナコンサワン県知事がオンアートさん宅を訪問。死亡証明証の取り消しが正式に決定されてことを伝え、身分証明書を26日に再発給することを報告。
26日午前9時、オンアートさんは奥さんと2人で役所に出頭、再発給された身分証明証が郡長によりオンアートさんに授与された。感極まったオンアートさんは「生まれ変わったみたいだ」と涙した。
また「タイ人としての権利を喪失していた25年間の補償として何か要求したいですか?」とのマスコミの問いに対しては、「新しい国民IDカードを発行してもらえただけで十分だ」とした。
チュチャートさんの息子によると、オンアートさんは身分証明証の更新ができなかった日から、国の医療保健制度が利用できなくなったため、病院には一度も行っていなかったという。