
タイの民間経済3団体連合(タイ商工会議所・タイ工業連盟・タイ銀行協会)は、外国人が「偽の父親」を用いてタイ国籍を不正に取得するなど、国籍のなりすましが横行している問題に強い懸念を表明した。こうした不正が国内の経済安全保障を損ないかねないとして、政府に対策強化を求めている。
問題視されているのは、タイ国籍を持たない外国人が、実在しない、あるいは事実と異なるタイ人男性を戸籍上の父親として届け出ることでタイ国籍を取得する「ポー・ティップ(偽の父親)」と呼ばれる手口をはじめとする、9種類にのぼる国籍・身分偽装の手法だ。婚姻を装った「偽装結婚」による在留資格の取得なども含まれ、いずれも背後に外国人による事業支配や資金洗浄など、灰色資本(グレーマネー)の流入を伴うケースが指摘されている。
不動産・企業の実質支配に悪用される懸念
タイでは外国人事業法により、特定業種での外資規制や土地所有制限が設けられているが、こうしたなりすまし国籍やノミニー(名義貸し)スキームを通じて、実質的に外国資本が規制を潜り抜けて不動産や企業を支配する事例が問題視されてきた。プーケットなど観光地では、地元住民の名義を借りて外国人が事実上の経営権を握る「ノミニー企業」が過去にも摘発されており、今回の国籍偽装問題も、その延長線上にある構造的な課題として位置づけられる。
同連合は、こうした不正が放置されれば、税収の逸失や公正な競争環境の毀損だけでなく、土地や重要インフラの実質的な支配権が不透明な形で外国側に渡るリスクにもつながりかねないと指摘。国境を越えた資金の流れや身分証明の管理を厳格化するよう、関係省庁に働きかけている。
SNSでも「身近な問題」と反応
この問題はタイ国内のSNSでも取り上げられ、関心を集めている。
- 「観光地の土地が気づけば外国資本に握られているという話をよく聞く」といった趣旨の投稿が見られた(出所:Facebook)
- 「身分証の偽装がここまで組織的に行われているとは驚き」との声も上がった(出所:X)
- 「取り締まりを強化しても抜け道を探すいたちごっこになりそう」といった趣旨のコメントも寄せられた(出所:Facebook)
デジタル身分証管理の強化を検討
政府側もこの問題を軽視しておらず、内務省を中心に戸籍情報とデジタル身分証明システムの連携強化、不審な国籍取得申請の審査厳格化などが検討課題に上っているとみられる。プーケットをはじめとする観光地では、商務省と関係機関が合同でノミニー企業の摘発に乗り出す動きも続いており、経済界と行政の双方が、外国資本の不透明な支配構造にメスを入れようとする機運が高まっている。
タイ経済にとって外国からの投資は成長の原動力である一方、法の網をかいくぐる形での実質支配は、国内産業の公正な競争環境を損ないかねない。経済界からの今回の警鐘が、実効性のある制度改正につながるかが今後の焦点となる。