日本を訪れたタイ人観光客のマナーをめぐる議論が、またもタイのSNSで大きな波紋を広げている。今回話題となっているのは、日本のしゃぶしゃぶ店で撮影されたとされる動画だ。店内でタイ人グループが大声で話し、乱暴な言葉を使っていたとして、タイ人ユーザーがSNS上に投稿。これが一気に拡散され、「海外でタイ人のイメージを悪くする行為だ」と批判が相次いだ。タイ紙デイリーニュースなどが報じた。

騒動の発端は、ある利用者が投稿した動画だった。投稿者は、日本でしゃぶしゃぶを食べに行った際、店内の雰囲気は良かったものの、近くにいたタイ人グループが非常に大きな声で話し、悪い言葉も多く、食事の雰囲気が台無しになったという趣旨の説明を添えていた。動画のキャプションには、タイ語で「少し静かにして」という意味合いの言葉も付けられていたという。
タイのSNSで特に注目されたのは、単なるマナー批判にとどまらず、動画内で聞こえた呼び名などから、人気女優ベラ・ラーニーさんの関係者ではないかという憶測が広がった点だ。ベラさんはタイで高い知名度を持つ人気女優で、本人や関係者が日本に滞在していたのではないかという情報と結びつける形で、ネットユーザーの間で“特定”が進んだ。
しかし、この憶測については、ベラさんのマネージャーがすぐに否定した。タイメディアによると、マネージャー側はSNS上で、動画に登場する人物はベラさんではないと説明。また、動画を投稿した側も、ベラさん本人ではないとの趣旨を示したとされる。結果として、騒動は「日本でのタイ人観光客のマナー問題」と「有名人を巻き込んだネット上の憶測」という二つの問題を同時に浮き彫りにした。
タイのコメント欄では、批判的な声が目立つ。
「海外では自分たちだけでなく、タイ人全体のイメージに関わる」
「日本の店は静かに食事をする雰囲気の場所も多い。旅行前に文化を学ぶべき」
「大声で話すのはタイ国内でも迷惑。日本だから問題という話ではない」
「有名人と決めつけて叩くのも危険。証拠がない段階で名前を出すべきではない」
一方で、別の角度から冷静な意見もある。
「動画だけでは全体の状況は分からない」
「本当に迷惑だったとしても、SNSに晒す前に店員に相談する方法もあったのでは」
「マナー違反とネット私刑は別問題」
この騒動がタイで大きく反応された背景には、近年の訪日タイ人旅行ブームがある。円安や航空便の増加、日本のアニメ・グルメ人気を背景に、日本はタイ人にとって最も身近な海外旅行先の一つとなっている。その一方で、日本の公共空間や飲食店でのマナーをめぐり、タイ人旅行者の行動がSNS上で議論になるケースも増えている。
最近も、日本のコンビニで会計前にカップ麺へお湯を入れたとされる行為や、飲食店での振る舞いをめぐる投稿がタイ側で話題になった。今回のしゃぶしゃぶ店の件も、その流れの中で「日本旅行時に気をつけるべきマナー」として受け止められている。
日本人から見ると、飲食店で大声を出さない、周囲の客に配慮する、店のルールに従うといったことは当たり前に感じられるかもしれない。しかし、タイ側の反応を見ると、単に「日本のルールを守れ」というだけでなく、「海外では一人ひとりの行動が国全体の印象につながる」という意識が強く表れている。
また、今回の件では、ネット上の憶測が有名人に飛び火した点も見逃せない。動画の一部の音声や呼び名だけを根拠に、無関係の人物が疑われる可能性がある。タイのSNSでも、マナー違反を批判する声と同時に、「証拠がない段階で個人名を出すべきではない」という慎重論が出ている。
訪日観光が日常化する中で、タイ人旅行者にとって日本はもはや“特別な遠い国”ではなくなりつつある。だからこそ、旅先での振る舞いはより身近な問題として問われている。今回の騒動は、日本のしゃぶしゃぶ店での一場面にとどまらず、タイ社会にとって「海外でどう見られるか」を考えるきっかけにもなっている。