
投資詐欺の容疑で指名手配され、懸賞金500万バーツがかけられていた人気ユーチューバー、ナッティー(29、本名ナタモン・コンジャック)の逃亡劇が、予想だにしない形で幕を閉じた。2022年8月にタイ国内から姿を消して以来、約2年にわたり行方をくらましていた彼女だが、潜伏先のインドネシアで現地警察により身柄を拘束されたことが明らかになった。
インドネシア入管での「国歌テスト」
現地メディアの報道によると、ナッティーと彼女の母親の2人は、インドネシアのリアウ州ドゥマイに潜伏していた。彼女が御用となったきっかけは、皮肉にも彼女の「演技力」が通用しなかったことにある。
ナッティーは現地でインドネシア人に成り済まし、偽造書類を用いて同国のパスポートを申請しようとしていた。しかし、窓口の入国管理局職員が、彼女の話すインドネシア語に不自然な訛りがあることを察知。不審に思った職員が、インドネシア国民であれば誰もが知る「国歌の斉唱」と「憲法の暗唱」を求めたところ、彼女は一言も答えることができなかった。
この決定的なボロにより身元が露呈し、10月18日に母親とともに身柄を拘束。10月25日、タイ当局の護送によりドンムアン空港へ強制送還された。空港に到着したナッティーは、かつてのセレブ生活を象徴する華やかな装いではなく、疲れ切った表情で「被害者の方々に申し訳ない。罪を償う」と短くコメントを残し、そのままサイバー犯罪捜査局(CCIB)へと連行された。
被害総額20億バーツ、6000人の憤り
2年前の報道時点では被害届は30人あまり、被害額も3700万バーツ程度とみられていたが、その後の捜査で事態はより深刻であることが判明した。警察の最新のまとめによると、被害者はタイ国内外で約6000人に上り、被害総額は20億バーツ(約85億円)を超える巨大ポンジ・スキームであったことが裏付けられている。
彼女は「FXで月利35%」という実現不可能な配当を謳い、インスタグラムやYouTubeで贅沢な暮らしを誇示することで信頼を集めていた。被害者の中には、老後の資金や教育ローンを全て注ぎ込んだ者も多く、今回の逮捕を受けて被害者団体からは「謝罪よりも先に、隠した資産の全額返金を求める」と怒りの声が上がっている。
現在、タイ当局(DSI)はナッティーが逃亡資金として持ち出したとみられる資産の追跡を急いでいる。これまでに約1600万バーツ相当の資産が差し押さえられているが、被害総額には遠く及ばず、資金の多くは海外の暗号資産口座などに分散された可能性が高いとみている。
「箱入り娘」の転落と、現実という名の檻
かつてテレビ番組で「メイド22人に囲まれ、靴も自分で履いたことがない」と豪語していた彼女の数奇な人生。マレーシアでの13歳での結婚、離婚、そしてタイでのインフルエンサーとしての成功と、今回の国際指名手配犯としての逮捕。
「逃げも隠れもしない」とSNSで宣言しながら、密入国ルートで他国へ逃げ延び、他国の国民になりすまそうとした末の幕切れは、彼女がYouTubeで演じてきた「完璧なセレブ」という物語の、あまりに無惨な終止符となった。
今後、ナッティーには詐欺罪やコンピューター犯罪法違反など、複数の罪状で厳しい判決が下される見通しだ。タイの世論は、かつての人気者の逮捕に沸くと同時に、インフルエンサーによる投資勧誘の危うさを改めて浮き彫りにしている。
