
タナー・クワードトン容疑者(通称「ポン」、43)とトンチャイ・シリニン容疑者(通称「トン」、39)の2名が、行方不明となっていたロシア人姉弟のバイクを解体・埋設した容疑で逮捕された直後、捜査当局の間では、近くのココナッツ農園で発見されることになるタイ人家族3人の殺害事件もまた、同一グループによる犯行ではないかとの疑いが強まっていた。当初は「バイク窃盗の証拠隠滅」という比較的小さな容疑で身柄を確保された2人が、やがて2つの一家、計5人の命を奪った連続殺人事件の中心人物として姿を現すまで、事件はわずか数日で急展開を遂げることになる。
消えた姉弟、母を襲った胸騒ぎ
事の始まりは7月26日未明。パタヤ近郊バンラムン郡に暮らすロシア人の姉ディアナ・ナジモワさん(22)と弟ロマン・ナジモフさん(17)が、レンタルしたホンダADV150に乗って自宅を出たまま戻らなかった。姉は外出中、母親に「何者かに追われている気がする」とメッセージを送っていたという。2日後の7月28日、不安を募らせた母親が警察に失踪届を提出し、捜索が始まった。
廃墓地に掘削道具を持つ男たち
捜査が動き出したのは、その日の夜だった。フワイヤイ地区の廃墓地付近で、男4人が掘削道具を手に何かの作業をしている姿を近隣住民が目撃し、通報したのである。翌7月29日、警察が現場に入ると、姉弟が乗っていたはずのバイクが無残にも解体され、約100メートル離れた2つの穴に分けて埋められているのが見つかった。持ち主の行方が分からないまま、その足だけが意図的に隠された――事件が単なる失踪ではないことを、この発見が決定づけた。
多県にまたがる追跡劇
バイクの遺留品としての価値と、それを埋めるという手口の周到さは、捜査線上に浮かんだ人物への包囲網を一気に狭めた。7月31日、容疑者の一人がチャンタブリー県方面へ逃走中との情報が入ると、警察は広域での捜索態勢を敷く。追跡は深夜まで続き、最終的にポン容疑者とトン容疑者は、隣接するサケーオ県ワンソムブン郡のロンガン果樹園に身を潜めているところを発見され、身柄を確保された。この時点での容疑は、夜間の共同窃盗、あるいは盗品譲受――あくまでバイクを巡る容疑にとどまっていた。
「バイクを奪おうとしたが、弟に抵抗された。だから撃った」――取り調べ室で語られた供述は、単純な窃盗の域をはるかに超えていた。
自白が開いた、もう一つの穴
逮捕から取り調べが進むにつれ、2人の供述は事件の性質を根底から変えていく。警察官を装って姉弟に接近し、バイクを奪おうとしたところ弟のロマンさんに抵抗され、銃で撃って殺害。姉のディアナさんにも暴行を加えて死亡させ、口封じのため遺体をフワイヤイ地区の森に埋めたと2人は認めた。案内された現場では、深さ約1メートルの穴から姉弟とみられる遺体2体が発見された。だが、事件が本当の意味で急展開を見せるのは、その直後のことだった。
ココナッツ農園に埋められていた、もう一つの家族
8月1日、警察はポン、トン両容疑者を伴い、遺体発見現場から程近いココナッツ農園の捜索に踏み切った。掘り出されたのは、姉弟のものとは別の穴――そこにはタイ人の父(53)、母(50)、娘(18)の一家3人が、折り重なるようにして埋められていた。ロシア人姉弟の事件を追う中で偶然たどり着いたこの発見は、警察の見立てを一変させる。バイク窃盗の果ての衝動的な殺人ではなく、同一グループが繰り返し人を襲い、埋めてきた連続殺人事件である疑いが、一気に強まったのである。
浮かび上がる4人組、そして指名手配
タイ人一家殺害事件の捜査が進むと、これに関与したとされる別の2人、チャチャナン・ペンイアム容疑者(通称「フルーク」)とアッサダーン・チュウォン容疑者(通称「ボール」)の存在が浮上した。警察は8月1日から2日にかけて両容疑者を指名手配し、行方を追っている。すでに逮捕された2人と合わせ、事件の背後には少なくとも4人からなる犯行グループの姿が見え始めている。事態を重く見たタイ首相も現地入りし、捜査の状況を直接視察した。
法廷は「逃亡の恐れあり」
パタヤ県裁判所は、ポン容疑者とトン容疑者による保釈請求を却下した。容疑の重大性、想定される量刑の重さ、そして逃亡のおそれ――裁判所が挙げた理由は、この事件がもはや単純な窃盗事件として扱えるものではないことを物語っている。当初の逮捕容疑であった窃盗・盗品譲受から、殺人容疑への切り替えに向けた手続きも進められているとみられる。
なお終わらない捜査
事件発覚から1週間あまり。地元住民の間では厳罰を求める声が上がる一方、警察は容疑者グループとの癒着疑惑を否定するコメントを出すなど、事件の余波は捜査当局自身にも及んでいる。逃走中の2容疑者の身柄確保、そして両事件以外に余罪がないかの確認――バイク一台の埋設という小さな痕跡から始まった捜査は、今なお終着点を見せていない。

