一年を通して常夏の陽射しが降り注ぐタイ王国は、「フルーツ天国」とも呼ばれるほど多彩な果物に恵まれた国だ。市場に足を運べば、色も形も香りもまったく異なる果物が所狭しと並び、その土地土地の物語や言い伝えを今に伝えている。本稿では1月から12月まで、月ごとに旬を迎える代表的なタイフルーツを一つずつ取り上げ、産地や逸話、そして何より「食べてみたくなる」味わいの表現とともに紹介していく。
1月 マカームワーン(มะขามหวาน/スイートタマリンド)
産地:ペッチャブーン県
乾季の澄んだ空気の中、タイ中北部ペッチャブーン県では毎年1月になると「マカームワーン祭り(タマリンド祭り)」が開催され、色とりどりの山車が街を練り歩く。この地の特産である甘味種タマリンドは、酸味種と違い追熟すると驚くほど甘くなるのが特徴だ。タイには古くから「タマリンドの木には強い力が宿る」という言い伝えがあり、寺院や旧市街の門付近にタマリンドを植えて魔除けとした歴史も語り継がれている。莢を割ると現れるのは、干し柿となつめを合わせたような、ねっとりと濃厚な果肉。ほんのりとした酸味が甘さを引き締め、食べ出すと止まらない後を引く味わいだ。

2月 ソムオー(ส้มโอ/ポメロ)
産地:ナコンパトム県
グレープフルーツの仲間だが苦みが少なく、優しい甘さが持ち味のポメロ。中でもナコンパトム県産の「カオナムプン」種は、地理的表示(GI、Geographical Indication)にも登録される銘品だ。旧正月(春節)を迎えるタイ中華系の人々にとって、丸く大きなポメロは「一家団らん」と「豊かさ」を象徴する縁起物として親しまれてきた。厚い皮をむくと、プリプリとした果肉の粒が現れる。一粒ごとにジュワっとはじける果汁は、上品な甘さの中にほのかな酸味と渋みを感じさせる。タイでは唐辛子と砂糖、塩を合わせた「プリックグルア」を付けて食べる楽しみ方もあり、これがまた新しい味の発見になる。

3月 リンチー(ลิ้นจี่/ライチ)
産地:チェンライ県
北部チェンライの山あいで3月から4月にかけて実る「ホンフワイ」種のライチ。中国唐代、絶世の美女・楊貴妃がこよなく愛したことで知られ、皇帝・玄宗は南方から早馬を乗り継がせて新鮮なライチを長安まで届けさせたという故事は、詩人・杜牧の一節でも有名だ。手に入る期間がごく短いからこそ、当時も今も特別な果物として扱われている。薄紅色の殻を割ると現れる半透明の果肉は、まるで芳香のあるシロップを閉じ込めたかのようだ。みずみずしい甘さと爽やかな酸味が口一杯に広がり、バラを思わせるほのかな香りが余韻を残す。

4月 マムアン(มะม่วง/マンゴー)
産地:サケーオ県カオチャカン郡、ピサヌローク県
気温が最も上がる4月、ソンクラーン(水掛け祭り)の頃に食べ頃を迎えるのが黄金色のマンゴー「ナムドークマイシートーン」だ。サケーオ県カオチャカン郡産は地理的表示(GI)登録品としても名高い。仏教説話には、祇園精舎で在家信者がブッダに贈ったマンゴーの種を植えると、たちまち大樹に育ち豊かな実りをもたらしたという「マンゴーの木の奇跡」の逸話が伝わっており、マンゴーは古くから聖なる果実として尊ばれてきた。熟した果肉は繊維をほとんど感じさせず、とろけるように滑らか。蜂蜜のような濃密な甘さは、もち米に添えた「カオニャオマムアン」で味わうと格別で、真夏のひとときを忘れさせてくれる一皿になる。

5月 トゥリアン(ทุเรียน/ドリアン)
産地:チャンタブリー県
「東部フルーツ王国」の異名を持つチャンタブリー県で、5月から6月にかけて最盛期を迎えるのが「果物の王様」ドリアンだ。強烈な香りゆえホテルや公共交通機関、飛行機内への持ち込みが禁止されているのは有名な話だが、その香りの奥には他の追随を許さない濃厚な味わいが潜んでいる。主力品種「モントーン」は近年、中国向け輸出で高値がつき、地域経済を大きく潤す「ドリアン景気」とまで呼ばれる現象を生んでいる。トゲだらけの殻を割って現れる黄色い果肉は、まるで極上のカスタードクリームとチーズを溶け合わせたような濃厚さ。ねっとりとした舌触りに、ほろ苦さを含んだ深い甘みが幾重にも折り重なる。

6月 マンクット(มังคุด/マンゴスチン)
産地:チャンタブリー県、ラヨーン県
ドリアンと同じ東部の産地で、6月から7月に旬を迎えるのが「果物の女王」マンゴスチンだ。西洋には「大英帝国ヴィクトリア女王が、この果物を新鮮なまま届けた者に褒賞を与えると約束した」という逸話が語り継がれており、タイでも国王ラーマ5世が好んで賞味したと伝わる。分厚い紫色の皮を割ると、真っ白でみずみずしい果肉が花びらのように現れる。上品な甘さと爽やかな酸味の絶妙なバランス、そして口の中でシャーベットのようにほろりと溶ける繊細な舌触りは、「女王」の名にふさわしい気品を感じさせる。

7月 ンゴー(เงาะ/ランブータン)
産地:スラーターニー県バーンナーサーン郡
マレー語で「毛」を意味する「ランブート」に由来する名の通り、真っ赤な殻から柔らかいトゲがびっしりと生えているのが特徴だ。スラーターニー県バーンナーサーン郡の「ランブータン・ロンリエン」種は地理的表示(GI)にも登録され、例年8月には盛大な収穫祭が開かれる。植物学的にはライチの近縁種にあたり、味わいもどこか似ている。殻をむくと半透明の果肉が種にほんのりと絡みつき、ライチよりもマイルドで爽やかな甘酸っぱさが広がる。みずみずしくさっぱりとした後味は、蒸し暑い雨季にこそぴったりの一品だ。

8月 ラムヤイ(ลำไย/ロンガン)
産地:ラムプーン県
中国語で「龍眼(ドラゴンアイ)」と呼ばれるのは、半透明の白い果肉の中に浮かぶ黒い種が、まるで龍の瞳のように見えることに由来する。北部ラムプーン県は一大産地として知られ、毎年8月には盛大な「ロンガン祭り」が開催され、パレードやコンテストで街全体が沸き立つ。乾燥ロンガンは中国伝統医学でも「血を補い気を養う」食材として珍重され、なつめと合わせたお粥やお茶は薬膳の定番だ。薄茶色の皮をむくと現れるゼリーのような半透明の果肉は、ライチより小粒ながら蜜のように濃厚で、花のような芳香を伴う甘さが特徴だ。

9月 ノーイナー(น้อยหน่า/シュガーアップル)
産地:ナコンラーチャシーマー県パークチョン郡
でこぼことした緑色の果皮が、丸まった巻き髪のように見えることから、中華圏では「釈迦頭(お釈迦様の頭)」の愛称で親しまれる果物だ。冷涼な高原気候に恵まれるナコンラーチャシーマー県パークチョン郡は、この地で育つ「ノーイナー」が特産品として知られ、地元では収穫を祝う祭りも催される。皮が黒ずむほど熟すのを待つのが美味しく食べるコツで、指で軽く割ると現れる白い果肉は、まるでカスタードクリームをそのまま凍らせたような、とろりとした食感だ。強い甘さの中にバニラとパイナップルを思わせる芳香が漂い、ひと口で虜になる甘美さがある。

10月 サオワロット(เสาวรส/パッションフルーツ)
産地:チェンマイ県山岳地帯(ロイヤルプロジェクト)
その名は、16世紀に南米へ渡ったスペインの宣教師たちが、複雑な形をした花の姿にキリストの受難(パッション)の象徴――茨の冠や釘、使徒たち――を見出したことに由来するという、意外性に満ちた由来を持つ。タイ北部の高原地帯では、かつて主要産物だったケシ栽培に代わる作物としてロイヤルプロジェクトが導入を進め、今ではチェンマイの山岳地帯を代表する特産品となった。しわの寄った紫や黄色の果皮を割ると、ゼリー状の種がぎっしりと詰まっている。強い酸味と芳醇な甘さが凝縮された一粒一粒は、まさに「南国のエッセンス」を煮詰めたような濃厚な味わいだ。

11月 マラコー(มะละกอ/パパイヤ)
産地:ラーチャブリー県
もともと中南米原産のパパイヤは、16世紀にポルトガルやスペインの交易船によって東南アジアへ渡ったとされる。ラーチャブリー県で育つ「ケークダム」種は地元の知恵によって磨かれてきた優良品種として知られる。未熟な青い実に含まれる酵素パパインは天然の肉軟化剤として活用され、タイの国民的サラダ「ソムタム」に欠かせない食材でもある。11月から乾季にかけて甘みが増す完熟パパイヤは、とろけるように柔らかな果肉が特徴。上品な甘さの奥に、ほのかに麝香を思わせる独特の香りが漂い、南国ならではの奥深い味わいを楽しませてくれる。

12月 プッサー(พุทรา/プッツァ、タイなつめ)
産地:タイ中部各地の果樹園
見た目は小さな青リンゴのようだが、これは中国語で「棗(ナツメ)」と呼ばれる果物のタイ版だ。中華文化では棗は繁栄と健康の象徴とされ、旧正月の贈答品や砂糖漬け「チェンイム」として親しまれてきた。乾燥させれば漢方薬に用いられる「大棗」となり、若く瑞々しいうちはシャキシャキとした食感が魅力だ。冷涼な乾季にぴったりの、リンゴと梨を足して割ったような軽やかな甘さと、水分たっぷりのみずみずしさは、蒸し暑さを忘れた師走のタイで、ひと足早い涼を届けてくれる。

おわりに
1月から12月まで、タイの大地は絶えることなく次の旬の果物を用意してくれる。同じ国とは思えないほど多彩な色、香り、味わいの果実たちは、それぞれの土地の気候と人々の営みが育んだ物語を宿している。次にタイを訪れる機会があれば、ぜひ市場や屋台で「今が旬」の果物を探してみてほしい。きっと、写真や文章だけでは伝えきれない感動に出会えるはずだ。