
タイの国民食であり、日本でも「サバ缶ダイエット」などで親しまれているサバのトマト煮缶詰。その信頼を根底から覆す、あまりに悪質な事件が発覚した。タイ食品医薬品局(FDA)は5日、バンコク近郊の臨海都市サムットサコーン県にある無許可の缶詰製造工場を電撃捜索。ラベルには堂々と「Pla Mackerel(プラー・マッカレル=サバ)」と表記しながら、その実、中身には正体不明の安価な雑魚を詰め込んだ偽装商品1万2760缶を差し押さえた。
事件の発端は、ある主婦がフェイスブックに投稿した「怒りの告発動画」だった。彼女が近所の商店で購入した格安のサバ缶を開封したところ、中から出てきたのはサバ特有の太い身ではなく、見たこともない細長く小ぶりな魚。「煮崩れてボロボロな上に、身がパサパサで脂の乗りが一切ない。何よりトマトソースの味で誤魔化せないほど生臭い!」という叫びは瞬く間に拡散された。これを受けた当局が市場の現物を緊急回収し、DNA鑑定を含む精密調査を行ったところ、法律で定められたサバ(マッカレル)の規格には到底当てはまらない、複数の雑魚が混在していることが判明したのだ。
当局の捜査官が工場に踏み込んだ際、現場はさらに凄惨な状況だった。床には魚の死骸や内臓が散乱し、衛生管理とは程遠い環境で、出所不明の魚が次々とトマトソースに放り込まれていたという。工場オーナーは「原材料価格が高騰し、本物のサバを使えば赤字になる。安く提供するために、近隣の漁港でタダ同然で手に入る雑魚を代用した」と白状しているが、これはもはやコスト削減の域を超えた、国民への毒物提供に等しい背信行為だ。
タイにおいてサバ缶は、一缶15〜20バーツ(約60〜80円)程度で買える「貧者の味方」でもある。特に給料日前や農村部では欠かせないタンパク源だ。そこを狙った卑劣な犯行に、政府は「食の安全を脅かすテロ行為だ」と激怒。容疑者には食品法違反として、最大10年の禁錮刑と高額な罰金という、文字通り「骨まで砕く」ような厳罰が処される見通しだ。
日本の食卓にも輸入食品は溢れている。ラベルに踊る「Mackerel」の文字が、実は「名もなき雑魚」だったとしたら……。この事件は、グローバルな食品流通の闇を照らすとともに、安さの裏にあるリスクを我々に突きつけている。今夜、あなたが手に取るその缶詰、本当に中身はサバだろうか?