バンコク北部に隣接するベッドタウン、パトゥムタニ県。普段はのどかなこの街の住宅街が、一夜にして「地獄の処刑場」へと変貌した。その主役は、浮気に走った夫でも、その相手の女でもない。すべてを裏で操った「サレ妻」の、あまりに用意周到で冷酷、かつハイテクな復讐劇である。
事の始まりは数ヶ月前。地元企業に勤める40代の夫の挙動が不審になった。スマホを風呂場まで持ち込み、夜帰宅すれば石鹸の香りがする。昭和のドラマのようなベタな怪しさに、妻の勘が働いた。だが、ここで泣き寝入りしたり、スマホを叩き割ったりするのが並の女なら、この妻は違った。彼女は、長年勤め上げた会社を退職したばかり。その手元には、まとまった額の「退職金」があったのだ。
「地獄の沙汰も金次第。不倫の報いも金で付けるわ」
妻がとった行動は、興信所への依頼だけではない。彼女が目をつけたのは、タイの街中を走り回る「LED広告トラック」だった。通常はコンサートの告知や新商品の宣伝に使われる、荷台が巨大な液晶モニターになっているあの車両である。彼女は、夫と不倫相手が密会を繰り返しているアパートの特定を済ませると、その建物の真正面にトラックを「24時間チャーター」で配置した。
運命の夜。仕事を終えていそいそと不倫相手の部屋に転がり込んだ夫が、ふと窓の外を見た時、そこに映っていたのは夜空に輝く自分の顔写真だった。しかも、ご丁寧に不倫相手と密会している時の証拠写真がスライドショー形式で流れているではないか。
モニターの下部には、特大のテロップが踊る。 『不倫おめでとう。私の退職金で遊ぶのは楽しい? ちなみにあなたの会社と実家にも、今からこの映像のリンクを送信します。愛を込めて。』
近隣住民は騒然となった。「新作映画のゲリラプロモーションか?」「いや、政治的な抗議デモか?」と野次馬が集まり、現場は瞬く間にスマホを構えた観衆で埋め尽くされた。トラックの光がアパートの壁を真っ赤に染める中、たまらず飛び出してきたのは半裸状態にシャツを羽織った夫。その後ろを、顔を隠した愛人が追う。
「消せ!今すぐ消してくれ!」とトラックの運転手に詰め寄る夫。しかし、運転手は冷静に告げた。「契約者は奥様ですので。私の権限では無理です」。その様子もまた、妻が配備した別のカメラでバッチリ録画されており、タイのSNS「X(旧Twitter)」でリアルタイム実況されるという徹底ぶり。
ネット民からは「この妻、軍師かよ」「退職金の使い道として最高にクール」と称賛の嵐が巻き起こった。一方で、夫側は社会的信用を完全に失墜。翌日には会社に辞表を出す羽目になったという。タイの女性は情が深いと言われるが、ひとたび怒りに火がついた時の行動力は、もはや国家予算規模の破壊力。不倫という火遊びの代償は、巨大スクリーンの電気代よりも高くつくことを証明した。