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[タイ人口ランキングの怪]バンコクから”消えた1300万人”とコラート大逆転のカラクリを追う!

都市別トップ10と県別トップ10、並べてみたら順位がバラバラ。バンコクの人口は「542万人」なのか「1818万人」なのか。県2位のナコーンラーチャシーマーが都市別だと10位に転落する珍現象——。数字の裏に隠れた「タイという国のリアル」を徹底解剖する!


タイの人口ランキングを2種類並べてみてほしい。国連推計による「都市圏人口」と、タイ内務省が発表する「県別登録人口」だ。

◆都市別人口トップ10(都市圏人口・2025年、国連推計)

順位都市人口
1バンコク1818万人
2チェンマイ62.7万人
3ハジャイ40.7万人
4プーケット38.9万人
5ロッブリー37.8万人
6チョンブリー29.7万人
7コーンケン27.5万人
8パタヤ23.8万人
9ナコーンパトム23.2万人
10ナコーンラーチャシーマー22.0万人

◆県別人口トップ10(登録人口・2025年末、タイ内務省)

順位都県人口
1バンコク都542万人
2ナコーンラーチャシーマー県261万人
3ウボンラーチャターニー県187万人
4チェンマイ県180万人
5コーンケーン県177万人
6チョンブリー県165万人
7ブリーラム県156万人
8ウドーンターニー県155万人
9ナコーンシータンマラート県153万人
10シーサケート県144万人

一見して「なんかおかしい」と気づくはずだ。バンコクは両方1位なのに人口が3倍以上違う。県別2位の堂々たる大県ナコーンラーチャシーマー(通称コラート)は、都市別だと最下位ギリギリの10位。逆に県別では61位という”下から数えたほうが早い”プーケットが、都市別では4位に食い込んでくる。

この数字のねじれ、実はタイ社会の構造そのものを映し出す鏡なのだ。


◆第1章 バンコク「1300万人消失事件」の真相

まずは首都バンコクから。登録人口542万人に対し、都市圏人口1818万人。その差、実に約1300万人。 東京都の人口がまるごと一つ「帳簿から消えている」計算になる。

カラクリは大きく2つある。

カラクリ①「タビアンバーン」という魔物

タイには「タビアンバーン(住居登録証)」という制度がある。日本の住民票に相当するが、決定的に違うのは「引っ越しても移さない人が大量にいる」という点だ。

イサーン(東北部)の農村からバンコクに出てきて働く人々の多くは、住民登録を故郷の実家に置いたままだ。理由は単純で、移す手間とメリットが釣り合わないから。選挙は故郷で投票すればいいし、実家の土地や家族との関係もある。バンコクのアパート大家がいちいち登録に協力してくれるとも限らない。

結果、「書類上はシーサケート県民、実体はバンコクのコンドミニアム住まい」という人間が数百万人単位で存在する。バンコクの登録人口542万人は、いわば「住民票を律儀に移した人の数」でしかないのだ。実際の夜間人口は1000万人超、日中は周辺から通勤者が流れ込んでさらに膨らむと言われる。

カラクリ②「バンコク」の範囲が違う

もう一つの種明かしは境界線だ。県別ランキングの「バンコク都」は行政区域(約1569km²)の話。一方、国連推計の「バンコク都市圏」は、市街地が連続している範囲をまるごとカウントする。

つまりノンタブリー県(登録人口132万人)、サムットプラーカーン県(同138万人)、パトゥムターニー県(同125万人)といった隣接県のベッドタウン群も「バンコク」に含まれるのだ。これらの県は県別ランキングでは12位、14位、17位あたりに散らばっているが、実態は完全にバンコクの一部。電車一本、渋滞込みで車1時間の距離である。

行政境界で切れば542万人、生活圏で括れば1818万人。どちらも嘘ではない。ただ「バンコク」の定義が違うだけなのだ。

ちなみに都市圏1818万人という数字は世界14位。ジャカルタやマニラと肩を並べるメガシティであり、タイ第2の都市チェンマイ(62.7万人)の約29倍。この「一極集中っぷり」は世界的に見ても異常値で、都市経済学では「プライメイトシティ(首位都市)」の代表例として教科書に載るレベルである。


◆第2章 コラートの謎——「県2位なのに都市10位」大逆転現象

さて本題。県別堂々2位、人口261万人を誇るナコーンラーチャシーマー県。ところが都市別ランキングでは22万人で10位。県の人口の1割も市街地に住んでいないことになる。これはどういうことか。

答え:コラートは「巨大な農村の集合体」だった

ナコーンラーチャシーマー県は面積約2万km²、タイ最大の県だ。四国より大きい。そしてその広大な土地の大半は、田んぼとキャッサバ畑とサトウキビ畑である。

261万人の県民は、県内に散らばる数千の村々に分散して暮らしている。県都コラート市の市街地はその中の「点」にすぎない。しかもタイの市(テーサバーン・ナコーン)の行政境界は驚くほど狭く、コラート市はわずか74km²。世田谷区と杉並区を足した程度の範囲しかない。

つまり県別2位という数字の正体は、「都市の力」ではなく「農村人口の総和」なのだ。

イサーン勢の正体は「出稼ぎ送り出し基地」

これはコラートだけの話ではない。県別トップ10を見返してほしい。3位ウボンラーチャターニー、5位コーンケーン、7位ブリーラム、8位ウドーンターニー、10位シーサケート——トップ10のうち6県がイサーン(東北部)だ。

だがイサーンの県都で都市別トップ10に入るのはコーンケン(7位・27.5万人)とコラート(10位・22万人)のみ。ウボンラーチャターニー市は19万人で13位、ウドーンターニー市に至っては14万人で18位だ。

イサーンはタイの人口の約3分の1を抱える最大の人口地帯でありながら、産業の集積は薄い。だから若者は登録を故郷に残したままバンコクや東部工業地帯へ出稼ぎに行く。イサーン各県の登録人口は「実際にそこに住んでいる人の数」ではなく、「そこにルーツを持つ人の数」に近い。 バンコクのタクシー運転手や屋台のおばちゃんに出身を聞けば、かなりの確率で「コラート」「ブリーラム」「シーサケート」という答えが返ってくるはずだ。

県別ランキング上位のイサーン勢と、バンコクから”消えた”1300万人。この2つの謎は、実は同じ一つの現象——「イサーンからバンコクへの人口大移動」——の表と裏なのである。


◆第3章 珍ランキング解読——プーケット、ハジャイ、ロッブリーの怪

順位のねじれはまだまだある。マニアックに見ていこう。

プーケット:県61位→都市4位の”逆コラート”

コラートと真逆の存在がプーケットだ。県別ランキングでは登録人口43万人で77都県中61位という小県。ところが都市別では38.9万人で4位に躍り出る。

理由は2つ。まず島全体が狭い(約543km²)ため、人口がほぼそのまま市街地に集中していること。そしてもう一つが「登録なき人口」の流入だ。観光業ブームに沸くプーケットには、タイ全土から働き手が集まり、外国人の長期滞在者も膨大にいる。彼らの多くは住民登録などしない。ハイシーズンには観光客も加わり、島の実人口は登録人口を大きく上回る。プーケットは「帳簿上は過疎県、実態は大都市」という、タイ統計の歪みを一身に体現した島なのだ。

ハジャイ:県都でもないのに全国3位

都市別3位のハジャイ(40.7万人)も面白い。実はハジャイ、ソンクラー県の県庁所在地ですらない。県都は11位のソンクラー市(21.3万人)だ。ところが商業・交通の実権は完全にハジャイが握っており、マレーシア国境貿易のハブとして県都を凌駕する南部最大の都市に成長した。「県庁がある街」と「栄えている街」は別、という好例である。日本で言えば、山口市より下関が栄えているようなものだ。

ロッブリー5位の違和感

「サルの街」として知られる古都ロッブリーが都市圏37.8万人で5位——これに違和感を持つタイ通は多いだろう。実際に街を歩けば、とても全国5位の大都会には見えない。これは国連の都市圏推計が軍関連施設の集積や周辺地区を広く含めているためとみられ、「統計上の都市圏」と「体感の街の規模」のズレが出やすい例だ。都市圏統計は連続する市街地を機械的に括るため、こうした”謎ランクイン”が時折発生する。逆に言えば、前年比+3.97%という高い伸び率が示す通り、拡大局面にあるのは確かなようだ。

パタヤ:登録12万人、実働数十万人の「夜の巨大都市」

都市別8位のパタヤ(23.8万人)も登録ベースでは12万人程度しかいない。だが観光客と出稼ぎ労働者を含めた”稼働人口”は桁違い。チョンブリー県が県別6位(165万人)に入っているのは、パタヤと東部経済回廊(EEC)の工業地帯が全国から人を吸い寄せているからで、前年比プラス成長の数少ない地方都市でもある。


◆第4章 で、結局「本当の人口」はどっちなのか?

ここまで読んで「じゃあどっちの数字を信じればいいんだ」と思った読者もいるだろう。答えは身も蓋もないが、「目的による」だ。

登録人口(内務省統計)は、行政サービスや選挙区割りの基礎となる「制度上の人口」。その土地にルーツを持つ人の数を知りたいなら、こちらが正しい。

都市圏人口(国連推計)は、実際にその街で寝起きし、メシを食い、カネを落とす人の規模を示す「経済上の人口」。ビジネスや不動産、出店計画を考えるならこちらを見るべきだ。

この使い分けを間違えると悲劇が起こる。「ナコーンラーチャシーマー県は人口261万人の巨大市場だ!」と意気込んで出店したら、市街地の商圏人口は22万人しかなかった——という話は、実際にタイ進出日系企業の間で語り草になっている類のワナである。逆に「プーケットは人口43万人の小県だから市場は小さい」と判断するのも大間違い。タイの統計は、二枚重ねで読んで初めて実像が浮かぶのだ。

数字が語るタイの未来

最後に、将来推計から見えるトレンドを一つ。国連推計によれば、2050年に向けて人口が伸びるのはバンコク圏、チョンブリー、パタヤ、アユタヤ、ナコーンパトムといった首都圏・東部勢。一方、コラート、コーンケン、ウドーンターニーなどイサーンの都市は軒並み減少が予測されている。コラート市は2050年に16.6万人まで縮む見込みだ。

タイ全体がすでに少子高齢化に突入するなか、「バンコクとその周辺だけが膨らみ、地方は静かに縮んでいく」——どこかの国で見たような光景が、タイでも着々と進行している。県別ランキングでイサーンの県が上位を占める風景も、若者の流出と高齢化が進めば、いずれ塗り替えられていくかもしれない。

住民票は故郷に、身体は首都に。2枚のランキングのあいだに横たわる1300万人の「幽霊人口」こそ、現代タイのもうひとつの姿なのである。

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