2022年6月に東南アジアで初めて大麻を非犯罪化したタイが、わずか3年余りで劇的な政策転換を断行した。タイ保健省と麻薬取締局(ONCB)の合同発表によると、全国7,297か所の大麻販売店舗に対して営業停止命令が下され、2026年4月末をもって娯楽・嗜好目的の大麻使用は再び違法となる。
合法化からわずか3年での政策転換
2022年の非犯罪化当初、タイ政府は農業振興・観光促進・医療産業育成を三本柱として大麻解禁を推進した。バンコクやパタヤ、プーケットには大麻カフェや専門ショップが次々と誕生し、最盛期には全国の登録店舗数が1万件を超えるほどの活況を呈した。観光客向けの大麻ツーリズムも盛んになり、一部地域では観光収入の押し上げ効果も報告された。
しかし、急速な普及は社会問題も引き起こした。保健省の調査では、未成年者の大麻使用率が解禁前の2倍以上に増加し、精神科への入院患者数も増加傾向が続いた。学校周辺での販売や、観光客向けと称した違法薬物との混合販売など、当局の監視が追いつかない実態も明らかになった。
政権交代が政策を一変させた
政策転換の直接的な引き金となったのは、アヌティン・チャーンウィラクル前保健相(現首相)の路線転換だ。大麻解禁を推進した張本人でもあるアヌティン氏は、首相就任後に「医療目的に限定すべきだった」と発言を翻し、2025年末に大麻規制強化法案を閣議決定した。国会での審議を経て成立した同法は、2026年4月30日を施行日と定めた。
反発も根強い。大麻産業関連の事業者団体は「一方的な政策変更で数千億バーツの投資が無駄になった」と猛反発し、行政訴訟の準備を進めている。農家からも「大麻農業に転換したばかりなのに」との悲鳴が上がる。特に東北部(イサーン)地方の農村部では、代替農業として大麻栽培に踏み切った農家が多く、補償制度の整備を求める声が高まっている。
医療用は継続・外国資本の参入に期待
完全禁止となるのは娯楽・嗜好目的に限られる。医療用大麻は引き続き許可され、政府指定の医療機関・薬局での処方が可能だ。保健省は「アジア有数の医療大麻産業を育成する」として、外国製薬会社との合弁事業や研究開発投資の誘致に注力する方針を示している。
タイ大麻産業協会(TCIA)の推計では、医療用市場は今後5年間で年率20%以上の成長が見込まれるとしており、日本・韓国・欧州の製薬企業がタイ進出の機会をうかがっている。政策の混乱は続くものの、医療分野での産業育成という方向性は維持される見込みだ。
観光業への影響も懸念
プーケットやカオサン周辺の大麻カフェは軒並み閉鎖を余儀なくされており、観光業者からは「外国人客の一部が失望してタイを敬遠するようになるのでは」との懸念も出ている。一方で「クリーンなイメージが回復し、家族連れや高齢者観光客が増える」とポジティブに捉える声もある。当局は違法販売の取り締まりを強化する方針で、違反した場合は懲役15年以下・罰金150万バーツ以下の厳しい罰則が科される。