
かつてマレーシアからの買い物客と観光客であふれた国境の街が、いま静まり返っている。タイ南部ソンクラー県サダオ郡の「ダーンノーク特別経済区」で、観光客が80%減少した。地元では「このままでは廃墟の町になる」との声が上がっている。
国境経済の急ブレーキ
ダーンノークは、マレーシアとの国境に接するタイ側の玄関口のひとつ。長年、週末になるとマレーシアからの来訪者が押し寄せ、飲食、宿泊、マッサージ、娯楽施設が集積する独特の経済圏を形成してきた。国境の街ならではの「越境消費」に依存した構造である。
その来訪者が8割減った。地元の商店主や宿泊業者は、売上の急減に直面している。開いていても客が来ない店、シャッターを下ろしたままの区画が目立ち始めた。
何が起きたのか
背景は単純ではない。マレーシア側の景気動向と為替、国境管理の運用変更、そしてタイ南部一帯の治安情勢――複数の要因が重なっている。タイ政府は7月31日にも国家安全保障会議で深南部情勢を最優先議題として取り上げており、南部の安全保障環境は依然として流動的だ。
加えて、越境型の「グレーな経済」に対する取り締まり強化も影響しているとみられる。タイ政府は近年、外国資本による違法な事業運営やコールセンター詐欺拠点の摘発を強化しており、国境地帯のビジネス環境は大きく変わりつつある。
「特別経済区」という看板の重さ
ダーンノークは特別経済区に指定され、投資優遇による産業集積が期待されてきた。だが実際に街を支えてきたのは、指定された産業ではなく、越境してくる消費者だった。人が来なくなれば、優遇税制は空の器にすぎない。
タイでは同時期、プーケットで「グリーンツーリズム」推進のために国会の観光委員会が現地入りするなど、観光地の高付加価値化が進められている。だが国境経済圏の再生は、それとはまったく別の処方箋を必要とする。
タイ南部を旅行する日本人にとっては、ハジャイからマレーシア国境へ抜けるルート上の街並みが大きく変わっている点に留意したい。営業しているつもりの店が閉まっている、というケースは今後増える可能性がある。
看板に「特別」と書いてあっても、人が歩いていなければただの通りだ。