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タイ政府、ビザなし滞在を30日に短縮 9月15日から 陸路での入国回数を制限

タイ政府は観光目的で入国する外国人に認めるビザ(査証)なし滞在の上限を、現行の最長60日から30日に短縮する。日本を含む60カ国・地域が対象で、内務省の関連告示が8月31日付の官報に掲載され、15日後の9月15日に発効する。2024年7月に「60日」へ拡大した優遇措置は2年2カ月で幕を閉じる。不法就労や制度の悪用を防ぐ狙いだが、観光客数が伸び悩むなかでの引き締めとなり、日本人の長期滞在者や出張者にも実務対応を迫る。

「15日」枠と陸路の回数制限を新設

新制度では、ビザ免除の枠組みを再編する。日本、米国、英国、ドイツ、フランス、シンガポール、マレーシアなど60カ国・地域には観光目的で30日の滞在を認める一方、セーシェルとモーリシャスには15日の枠を新設した。到着ビザ(アライバルビザ)の対象はアゼルバイジャン、ベラルーシ、セルビアの3カ国に絞り込む。

実務上の影響が大きいのが陸路入国の回数制限だ。ビザなしで陸路の国境検問所から入国できる回数を1暦年あたり2回までとする。マレーシア、ブルネイ、インドネシア、シンガポールの国籍者などは適用外となる。国境を越えて出入国を繰り返し、滞在期間をつなぐ「ビザラン」を封じる措置とみられる。

発効前にビザなしで入国した外国人は、入国時に付与された滞在期限まで滞在できる経過措置が設けられた。9月14日までにタイに入国すれば、当面は60日の枠が維持される計算だ。

悪用対策と「相互主義」 2年で方針転換

60日免除は、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ観光需要を呼び戻す目玉策として2024年7月15日に導入された。だが、就労許可を持たないまま国内で働く例や、無許可の商売、詐欺グループの拠点確保などに長期の滞在枠が使われているとの指摘が相次いだ。観光・スポーツ省が2025年3月に見直しを提起し、内閣が2026年5月に短縮方針を承認。7月の追加決定を経て、8月末の官報掲載で制度改正が確定した。

外務省領事局の担当者は見直しの理由について、相互主義や安全保障上の懸念に加え、複数のビザ免除制度が併存して旅行者の混乱を招いていた点を挙げる。内務省も告示で「国家安全保障と経済、観光振興を考慮した」と説明した。観光相は制度改正により「ビザの悪用や犯罪、詐欺、不法就労を防ぎ、長期的にはタイの安全性と観光客の信頼を高める」と強調している。

もっとも、タイミングは観光業にとって逆風だ。2026年8月の外国人旅行者数は251万人と前年同月比2.6%減。政府は26年通年の訪タイ外国人を3200万人程度と、25年の3300万人から一段の減少を見込む。中国人客の回復の鈍さやベトナムなど近隣国との競合に加え、入国管理の厳格化が需要にどう響くかが焦点となる。

日本人観光客 2週間の旅行は影響薄

日本人旅行者への影響は滞在の長さで二分される。5泊7日や2週間程度の一般的な休暇旅行であれば、新制度でも従来通りビザなしで入国でき、実務上の変更はない。往復航空券や滞在先の提示を求められる可能性がある点も、これまでと同様だ。

一方で、影響を受けるのは30日を超える滞在だ。定年後の「お試しロングステイ」、語学学校の短期コース、長期の医療・歯科治療、タイに住む家族の訪問、フリーランスの長期滞在などが該当する。30日を超える場合は、出発前に観光ビザ(TR)を取得するか、入国後にイミグレーションオフィスで延長申請(手数料1900バーツ)を行う必要がある。延長申請は窓口の混雑や必要書類の確認に時間を要するため、余裕を持った手続きが求められる。

タイに来る日本人は足元で減っている。8月の日本人旅行者は10万8564人と前年同月比15.3%減で、国籍別では4位。1〜8月の累計は75万6404人だった。円安・バーツ高で旅行コストが上昇するなか、滞在日数の上限縮小が長期滞在型の需要をさらに冷やす懸念がある。

出張・駐在は「観光目的」の壁

より慎重な対応を迫られるのがビジネス目的の渡航だ。新たなビザ免除は告示上「観光目的」と明記されており、就労や商用活動の許可ではないとされる。会議や商談を含む短期の出張について、どこまでビザなし入国が認められるかは運用次第の面が残り、入国審査での説明を求められる場面が増える可能性がある。

とりわけ影響が出やすいのが、日系製造業の工事・据え付け・立ち上げ支援だ。設備の据え付けや試運転、監査、技術研修の派遣は1カ月を超えることが珍しくない。従来は60日枠に収まっていた日程が30日の上限に収まらなくなり、いったん帰国して再入国する、あるいは事前にノンイミグラント「B」ビザを取得するといった対応が必要になる。就労を伴う業務であれば、ビザに加えて労働許可証(ワークパーミット)の取得が前提となる点も変わらない。

在タイ日系企業の人事・総務部門にとっては、(1)出張日程の再設計と早期のビザ申請、(2)出張者の出入国履歴の管理、(3)陸路でカンボジアやラオス、マレーシアへ出張する際の年2回制限の把握——が当面の実務課題となる。長期の滞在が必要な人材については、デジタルノマド向けの「DTV」や高度人材向けの「LTR」など、目的に応じた在留資格の使い分けも選択肢に入る。

タイでは近年、入国管理と外国人就労の監視が段階的に強化されてきた。今回の短縮は観光振興と管理強化のバランスをどう取るかという、コロナ後のタイ観光政策の転換点となる。日本からの渡航者にとっては、「ノービザで2カ月」という前提が崩れることを踏まえ、渡航目的と日数に応じた事前準備が欠かせない。


▼ビザ免除措置(新制度の要点)

項目内容
発効日2026年9月15日(官報掲載は8月31日)
滞在上限30日(日本を含む60カ国・地域)
15日枠セーシェル、モーリシャス
到着ビザアゼルバイジャン、ベラルーシ、セルビア
陸路入国ビザなしは1暦年2回まで(ASEAN一部を除く)
目的観光目的。就労・長期滞在は別途ビザが必要
経過措置発効前の入国者は付与された期限まで滞在可
延長イミグレーションで延長申請(手数料1900バーツ)

(注)二国間協定に基づき、中国やベトナムは30日、韓国は90日の免除が別途認められる。

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