
国境の向こうに、新たな「詐欺の都」が生まれつつある。タイ字紙最大手タイラットの調査報道によると、ミャンマー国境地帯への摘発強化で行き場を失ったコールセンター詐欺団が、ラオス中部の都市タケーク(カムムアン県)に拠点を移し始めているという。背後にいるのは中国系のグレー資本。現地の土地を次々と買い漁り、「新たな帝国」を築こうとしていると報じられている。
タケークはタイ・ナコンパノム県とメコン川を挟んで向かい合う静かな地方都市だ。第3タイ・ラオス友好橋で結ばれ、人の往来も物流も容易。この地の利が、皮肉にも犯罪組織にとって格好の条件となっている。タイ側から労働者や「口座名義人」を呼び込みやすく、摘発の手が及びにくい国境の外側という立地は、詐欺ビジネスの教科書通りの選地といえる。
コールセンター詐欺団はこれまで、ミャンマーのミャワディやシュエコッコ、カンボジアのポイペトなどを主要拠点としてきた。しかし国際的な批判の高まりを受けた電力・通信の遮断、相次ぐ合同摘発で環境が悪化。資本と設備はより緩い場所へと流れ続けており、タケークはその「次の受け皿」になりつつある構図だ。タイラットは同時に、チョンブリー県ボーウィン周辺の「ゼロドル型」中国系ビジネス圏の実態も報じており、タイ国内外でグレー資本の浸透が同時進行している実態が浮かび上がる。
タイ人にとってこの問題は他人事ではない。詐欺電話の主要ターゲットは今もタイ国民であり、被害額は年間数百億バーツ規模に上るとされる。拠点が国外にある限り、タイ警察単独での摘発には限界があり、ラオス当局や中国との連携が不可欠だ。折しもタイ政府は外国資本による違法なノミネー(名義借り)ビジネスの一斉捜査を指示したばかり。国内の締め付けと国外への流出という「いたちごっこ」を断ち切れるかが問われている。
メコン川の対岸に積み上がるガラスと鉄筋の建物群が、誰の金で、何のために建てられているのか。タイ社会が支払わされてきた授業料は、すでに高すぎるほど高い。
