
パンガー湾に浮かぶ石灰岩の島々、プーケットの真っ青な海、チェンマイの棚田と山並み――タイは空撮映えするスポットの宝庫で、ドローンを持って旅する人が増えています。ただしタイのドローン規制は近年厳格化と緩和が繰り返され、2026年6月にも大きなルール変更がありました。知らずに飛ばすと高額な罰金や機材没収、最悪の場合は国外退去のリスクもあります。
この記事では、タイでドローンを楽しむ魅力から、登録手続き、飛行ルール、注意すべきエリアまで、旅行者向けに分かりやすく整理しました。
1. タイでドローンを飛ばす魅力
息をのむ絶景スポット

- パンガー湾(プーケット近郊):007「黄金銃を持つ男」の舞台になったジェームズ・ボンド島をはじめ、大小160もの島々とマングローブが織りなす奇景を上空から一望できます。
- プーケット:パトンビーチやカマラビーチなど、白砂とターコイズブルーの海を俯瞰する定番スポット。
- チェンマイ:ドイステープ寺院、タイ最高峰ドイ・インタノン、Pa Pong Piengの棚田など、山岳地帯ならではの雄大な風景が撮影できます。
- バンコク:チャオプラヤー川沿いの寺院群など都市景観も魅力ですが、市街地の大部分は空港制限区域や飛行禁止エリアに重なるため特に注意が必要です。
旅の記録がワンランク上がる
地上からのスナップとは違い、上空からの映像はビーチのグラデーションや島の形、寺院の全体像などをダイナミックに記録できます。SNSや旅行動画づくりを目的に持参する旅行者も年々増えています。
2. タイのドローン規制の基本構造
タイでは2つの当局がドローンを管轄しており、両方への登録が必須です。片方だけでは違法になります。
| 機関 | 役割 |
|---|---|
| NBTC(国家放送通信委員会) | 機体所有者登録・無線周波数登録。重量・用途を問わず全てのドローンが対象 |
| CAAT(タイ民間航空局) | 機体・操縦者登録、操縦許可証(パイロット証明)の発行、飛行申請の受理 |
CAAT登録が追加で必要になるのは、カメラや記録装置を搭載した機体、重量2kg超25kg未満の機体、25kg超の機体(この場合は運輸大臣の書面承認も必要)です。観光客が持ち込む一般的な空撮用ドローンはほぼ全てカメラ搭載のため、実質的にNBTC・CAAT両方の登録が必須と考えてください。
3. 登録の流れ(現地での手続き)
海外からの持ち込み機は、渡航前にオンライン登録を完結させることができません。タイ入国後に、入国スタンプとタイの携帯電話番号を使って手続きするのが基本です。
- 入国:パスポートの入国スタンプを取得し、タイの携帯SIMを用意する(本人確認のSMS認証に使用)。
- NBTC登録(anyregis.nbtc.go.th):機体所有者登録と無線局登録を行う。海外から持ち込んだ機体はオンライン登録が使えない場合があり、その際はNBTCの窓口に直接出向く必要があります。審査には概ね1〜3営業日。
- CAAT登録(UASポータル:uasportal.caat.or.th):アカウント作成、ワンタイムパスワードでの本人確認の後、パスポート・機体写真・保険証書をまとめたPDFをアップロード。承認まで概ね1〜3営業日〜1週間程度。
- オンライン講習・試験の受講:CAATが提供するオンライン講習(無料、約2時間)を受講し、修了後に知識テスト(40問・40分・合格ライン80%)に合格するとパイロット証明が発行されます(有効期間2年)。不合格の場合は24時間後に再受験可能です。
- 登録番号の表示:発行された登録番号を機体に表示。文字サイズは25kg未満の機体で3mm以上、25kg超で25mm以上が必要です。
- 飛行申請(UASポータル):飛行のたびに、エリア・日時・目的をCAATへ最低3日前までにUASポータルで申請し、承認を得る必要があります。
登録期限にも注意が必要で、タイ国内で購入した場合は購入から30日以内の登録が求められ、未登録のまま飛行すると罰則の対象になります。
4. 保険加入は必須
タイでドローンを飛ばすには、対人・対物賠償責任保険(最低100万タイバーツ以上)への加入が義務付けられています。保険はタイ国内・海外いずれで加入したものでも構いませんが、CAAT登録時に保険証書の提出が求められるため、事前に手配しておきましょう。
5. 飛行時の基本ルール
- 飛行可能時間:日中の視界良好時のみ。夜間飛行や雲の中・雲付近への飛行は禁止(夜間飛行や高度90m超の飛行は事前の書面許可が必要)。
- 目視飛行(VLOS)が原則:FPVやカメラ映像のみを頼りにした操縦は認められていません。
- 空港周辺:空港・仮設飛行場から9km以内は許可なく飛行禁止。バンコク、プーケット、チェンマイ市街地の多くがこの範囲に含まれます。
- 安全距離:2kg未満の機体は周囲30m以上、2〜25kgの機体は50m以上の距離を保つ必要があります。
- 禁止エリア:国会議事堂、王室関連施設、軍事施設、政府機関周辺は原則禁止。危険物(レーザー機器など)の輸送も禁止です。
- 人混み・市街地上空:都市部や集会上空での飛行は許可なしでは認められません。
6. 特に注意すべきエリア
国境沿い7県の飛行制限(2026年8月時点)
タイ・カンボジア国境情勢を受け、CAAT通達第16号により、以下の7県の一部地域では観光・娯楽目的の飛行が原則認められていません(2026年6月26日以降、大部分の地域では緩和されましたが、下記の管理地区は制限継続中)。
- ウボンラーチャターニー:Khemarat、Na Tan、Pho Sai、Si Mueang Mai、Khong Chiam、Sirindhorn、Buntharik、Na Chaluai、Nam Yuen各郡
- シーサケート:Phu Sing、Khun Han、Kantharalak各郡
- スリン:Phanom Dong Rak、Kap Choeng、Sangkha、Bua Chet各郡
- ブリーラム:Lahan Sai、Ban Kruat各郡
- サケーオ:Khlong Hat、Aranyaprathet、Khok Sung、Ta Phraya各郡
- チャンタブリー:Mueang Chanthaburi、Soi Dao、Pong Nam Ron各郡
- トラート:Mueang Trat、Khlong Yai、Bo Rai各郡
これら以外の大部分の地域では、登録・保険加入・飛行申請を満たせば飛行可能になりましたが、状況は流動的なため渡航直前に必ずCAATの最新通達を確認してください。
国立公園
ドイ・インタノン、カオソック、エラワン、ミャンマー国境の島々を含むシミラン諸島など、タイの国立公園では原則としてドローン飛行が禁止されています。国立公園局への事前申請で許可を得られる場合もありますが、娯楽目的での許可はほとんど下りないのが実情です。
7. 罰則
無登録・無許可でのドローン飛行が発覚した場合、以下のような罰則が科される可能性があります。
- 航空法違反:1年以下の懲役、または4万バーツ以下の罰金、あるいはその両方
- 無線通信法違反(無登録の無線設備使用):5年以下の懲役、または10万バーツ以下の罰金(航空法違反と併科される場合もあり)
- 悪質な場合は機材没収、拘束、観光客であれば国外退去の対象になることもあります
違反を発見した場合は、CAAT無人航空機基準技術部(Tel: +66 2 568 8851)や、警視庁アンチドローンセンター(Tel: +66 2 126 7846)に通報する仕組みも整備されています。
8. 実務上の注意点(渡航準備)
- バッテリーは機内持ち込みのみ:タイの航空当局規制により、モバイルバッテリー・ドローン用バッテリーは受託手荷物(預け荷物)への収納が禁止されており、機内持ち込みのみ可能です。1人あたり2個まで、1個あたり100Wh(約2万mAh相当)以下が目安です。航空会社ごとに細則が異なるため、利用する航空会社に事前確認しましょう。
- 本体は預け入れ・持ち込みどちらも可:バッテリーを装着したままの本体は基本的に預け入れ・機内持ち込みいずれも可能です。
- タイのSIMカードを準備:登録手続きにはタイの携帯番号でのSMS認証が必要になるため、空港などで早めにSIMを入手しておくとスムーズです。
- レンタルという選択肢も:登録の手間を省きたい場合、現地の空撮業者へ撮影を依頼したり、登録済みの機体をレンタルできるサービスを利用する方法もあります。個人での登録が間に合わない短期旅行者には特におすすめです。
- 最新情報は必ず確認:規制は国境情勢などにより随時変更されます。出発前にCAAT(www.caat.or.th)やNBTC(www.nbtc.go.th)、タイ国政府観光庁(TAT)の発表を確認してください。
まとめ:出発前チェックリスト
- ドローン用の賠償責任保険(100万バーツ以上)に加入したか
- タイ入国後、NBTC・CAAT両方への登録を完了したか
- CAATのオンライン講習・試験に合格し、パイロット証明を取得したか
- 機体に登録番号を規定サイズで表示したか
- 飛行予定エリアが国境管理地区・国立公園・空港9km圏内に該当しないか確認したか
- 飛行の3日前までにUASポータルで飛行申請を行ったか
- バッテリーは機内持ち込み手荷物に入れたか
タイのドローン規制は決して簡単ではありませんが、正しく手続きを踏めば、パンガー湾やプーケット、チェンマイなど世界的にも人気の絶景を上空から楽しむことができます。事前準備を万全にして、安全で快適な空撮旅行を楽しんでください。