
電話の主は電力公社の職員を名乗った。「お宅の変圧器に問題があります。交換が必要で、保証金の返還手続きをします」。その一言を信じた61歳の男性の口座から、179万9400バーツが3回に分けて消えた。
7月31日午後1時30分、サイバー犯罪捜査本部のスラポン・プレームブット中将(本部長)らが記者会見を開き、ベトナム人を中心とする国際詐欺団の摘発を発表した。1年間でタイ人被害者18人、被害総額は1200万バーツを超えるという。
OTPを「順番待ちの番号」と偽った
最初の被害届は7月9日。犯人はまずLINEを追加させ、その後ビデオ通話に切り替えてQRコードを送りつけた。次に銀行アプリを開かせ、表示言語を英語に変更するよう指示。被害者のスマホに届いたワンタイムパスワードについては「これは順番待ちの番号です」と読み上げさせた。手口はそれだけだった。
「変圧器の保証金が戻る、という話に現実味を持たせるのがうまい。ビデオ通話まで使うので、相手は完全に信じ切ってしまう」(捜査担当官)
金の延べ棒を買っては売る、単純だが追いにくい洗浄
資金の流れを追った捜査員は、送金先が法人口座と、ナリサラーさん(32)名義の個人口座であることを突き止めた。個人口座からはランシット地区のショッピングモール内の銀行窓口で現金が引き出され、そのまま組織の別メンバーへ渡っていた。
法人口座の金はさらに露骨だった。ナコンパトム県サムプラーン地区の金行で、22回にわたり計500万バーツ分の金の延べ棒を購入。タイ人の実行役が金を受け取り、ベトナム人の指示役へ引き渡す。指示役はそれをノンタブリー県のモール内にある別の金行で売却し、400万バーツ超の現金に戻していた。
裁判所はこの組織に対しベトナム人3人、タイ人4人の計7人分の逮捕状を発付。うち5人が身柄を確保された。ベトナム人はグエン・ディン・サン容疑者(29、男)とチン・ティ・トゥイズン容疑者(25、女)で、まさに金を売却しようとしていた瞬間を押さえられた。押収品は金の延べ棒14本(重量27.5バーツ、約170万バーツ相当)、現金6万6500バーツ、携帯電話3台、乗用車2台。
タイ人はナリサラー容疑者(32、女)のほか、シッティチャート容疑者(29、男)とワスパー容疑者(34、女)。後者2人はラヨーン県ムアン郡ヌーンプラ地区スクンビット通りのホテルに潜伏していたところを逮捕された。
「2人は、金を買いに行かせるタイ人が現金を持ち逃げしないよう監視するためにタイへ送り込まれた、と供述しています」。カーンタポン少将はそう明かした。2人の入国歴を調べたところ、何年も前から繰り返しタイに出入りしており、直近の入国は昨年末だったという。
SNSでは「電力公社は絶対に電話でOTPを聞かない」「うちの父にも同じ電話が来た」「金行が22回も同じ客に売って何も思わないのか」といった声が飛び交った。容疑者らには公務員を装った窃盗、盗品譲受、公衆詐欺、不正アクセスなどの容疑がかけられている。残る2人と、背後にいるとみられる「ボス」の追跡が続く。