
制服を着た男がバイクで民家を回り、電気代を集めていた。払わなければ電気を止めると言う。だが、その男は電力公社の職員ではなかった。
タイ東北部で電力公社職員を装い、住民から電気代名目で現金をだまし取っていた58歳の男、チャンウィットさんがチャイヤプーム県プーケーオ郡で逮捕された。活動範囲はウドンタニー県、そしてコンケン県チュムペー郡にまで及んでいた。
1570バーツを渡した23歳女性
被害の一例が記録に残っている。8月11日、23歳の女性が、この男から1570バーツを集金されていた。制服を着て、バイクでやってきて、電気代の未払い分だと告げられれば、疑う理由は薄い。地方では検針員が個別に回ることも珍しくないからだ。
払わない住民には、こう脅していたとされる。電気を切断する、と。生活に直結する脅し文句である。
男は制服を自分で購入していた。本物らしく見せるための、周到とも幼稚ともつかない準備である。
「酔っていないと、やれない」
取り調べで男が語った動機は、想定外のものだった。
「失業してからアルコール中毒になった。酔った状態だと度胸が出る」
そのうえで、こう付け加えたという。
「酔っていないと、犯行を実行できない」
詐欺を働くために、まず酒を飲む。そういう順序だったわけである。男にはウドンタニー県で以前に逮捕され、3カ月間服役した前歴もあった。
タイのSNS上では、「制服さえ着ていれば信じてしまうのが怖い」「電力公社は集金方法を周知すべきだ」といった趣旨の書き込みが並んだ。一方で、「失業と依存症が背景にあるなら、刑罰だけでは同じことが繰り返される」と、社会的な要因を指摘する趣旨の投稿も見られた。
「その場で現金」は疑ってよい
タイの電力公社(PEA)は、通常コンビニや銀行、アプリを通じた支払いを案内しており、職員が各戸を回って現金を受け取る運用は限られている。制服姿の人物がその場で現金を要求してきたら、まず本人確認と領収書の発行を求めるのが基本になる。
今回の被害額は1件あたり数百バーツから千数百バーツと、けっして高額ではない。だからこそ「面倒だから払っておこう」と考える住民が多く、被害が長期化した側面がある。
酒を飲まなければ悪事も働けなかった58歳。皮肉なことに、その正直さだけは本物だったようだ。