
タイで燃料価格の高止まりが続いている。ガソリンや軽油は3月下旬に急騰し、4月後半にいったん落ち着いたものの、なお年初を上回る水準にある。日々の通勤、物流、食材価格に影響が広がり、生活防衛意識は一段と強まっている。
足元の小売価格は、軽油が1リットル40バーツ台、ガソホール91・95も40バーツ台前半で推移する。E20は相対的に安いが、それでも30バーツ台後半にある。添付グラフでは、2月まで下落基調だった各油種が3月下旬に急反転した様子が鮮明だ。
影響が大きいのは、車やバイクで通勤する層だ。バンコクでは公共交通が発達する一方、郊外や地方では自家用車やバイクへの依存度が高い。燃料代の上昇は毎日の通勤費を直接押し上げ、外食を減らす、遠出を控える、安い燃料を選ぶといった節約行動につながりやすい。
物価への波及も避けにくい。食品、日用品、農産物の輸送にはトラックが広く使われる。軽油価格が高止まりすれば物流費は上昇し、屋台、食堂、市場、スーパーの商品価格に転嫁される可能性がある。燃料高は給油代だけでなく、食費や生活必需品の価格を通じて家計全体を圧迫する。
企業にも負担は重い。製造業では原材料や製品の輸送費が上がり、農業では機械やポンプ、輸送に使う燃料費が収益を圧迫する。観光業でも、送迎車、バス、船舶などの運行コストが上がれば、ツアー料金やサービス価格に影響する。価格転嫁が難しい中小企業ほど、利益率の低下に直面しやすい。
政府は燃料価格安定化基金を使い、価格変動の抑制を続けている。ただ、基金の赤字拡大により、補助金頼みの価格抑制には限界がある。燃料税の引き下げも選択肢となるが、財政負担を伴う。生活支援と財政規律の両立が課題だ。
タイ経済は家計債務の重さ、消費の伸び悩み、観光回復の鈍さを抱える。そこに燃料高が重なれば、個人消費の回復はさらに遅れる。企業もコスト増を吸収しきれなければ、投資や雇用に慎重になる。
今後の焦点は、国際原油価格と中東情勢、そして政府の補助政策だ。原油相場が落ち着けば小幅な値下げはあり得る。しかし、基金赤字と地政学リスクが残る限り、価格が一気に低下する展開は描きにくい。
燃料高は、タイ人の財布から静かに購買力を奪っている。給油所の価格表示は、通勤手段、昼食代、物流コスト、企業収益、そして景気回復の速度を映す鏡である。タイ経済は今、高い燃料価格を前提にした生活と経営の再設計を迫られている。