
米国とイランが6月19日にスイスで正式な和平協定の調印式を行う見通しとなった。長年にわたって対立してきた両国の関係正常化が実現した場合、中東産原油の輸送における最重要航路であるホルムズ海峡の通行安定化につながることが期待される。タイのエネルギー市場や物価動向への波及効果として、専門家たちが分析を始めている。
ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ幅わずか55km程度の航路で、世界の原油輸送量の約20〜25%がここを通過する。イランが核開発問題などをめぐって欧米から制裁を受けていた時期には、イラン政府が「ホルムズ海峡封鎖」を示唆する発言を繰り返し、原油価格の一時的な急騰を何度も引き起こしてきた。
タイはエネルギー消費量の大部分を輸入に頼っており、特に中東産原油への依存度は高い。タイ国家エネルギー庁のデータによると、2025年のタイ原油輸入に占める中東産の割合は約60%に達する。このためホルムズ海峡の安定は、タイの燃料費・電力料金・物流コストに直接影響する。
和平協定の調印が確実視されるとの報道を受けて、国際原油価格(ブレント原油)は既に1バレル当たり5〜8ドル程度の下落圧力を受けており、タイ国内のガソリン価格への転嫁は数週間以内に表れると見込まれている。タイ石油公社(PTT)のアナリストは「もし制裁解除に進みイランが全面的に原油輸出を再開すれば、世界市場での供給過剰感が強まり、原油価格はバレル当たり10〜15ドルの下落余地がある」と述べた。
一方で、中東の地政学的リスクが完全に消えたわけではないとの慎重な見方もある。米国内の保守派や中東の親米国家であるサウジアラビア・イスラエルの反応次第では、和平プロセスが揺らぐ可能性も排除できない。タイのエネルギー担当者は「喜ぶのはまだ早い。調印後も実施状況を注視する必要がある」と冷静に構える。
タイ消費者への実質的な恩恵として期待されるのは、ガソリン・ディーゼル価格の引き下げによる家計負担の軽減と、物流コスト低下に伴う食品・日用品価格の安定だ。インフレ圧力が続くタイ経済にとって、原油安は中央銀行(BOT)の金融政策運営にも余裕をもたらすとみられている。