
父親が差し出した現金は20万バーツ。約束されていたのは、息子が地方公務員として採用されることだった。合格発表の紙に、息子の名前はなかった。
タイ東北部ナコンラチャシマ(コラート)県クローンブリー郡。12日、地元メディアの取材に応じたのは、被害を訴える父親のK氏(仮名)だ。相手は同郡の元自治体(タンボン行政機構)トップ、つまり地元の元政治家である。
提示額は55万バーツ、手付けが20万バーツ
K氏によれば、試験の前に元自治体長が自ら訪ねてきて、こう持ちかけたという。金を払えば試験に合格し、地方公務員として採用される――。提示された額は約55万バーツだった。
「手元に現金が20万バーツしかなかったので、まずは手付けとして渡した」。K氏はそう語る。個人的な付き合いがあり、相手を信用していた。「絶対に採用されると請け合われた。それに、あの人がこれまで何人も職に就かせているのを見ていたので、息子も間違いないと思い込んでしまった」
「返してほしければ、訴えればいい」
ところが合格発表に息子の名前はなかった。K氏が問い合わせても、元自治体長は不合格の理由を何ひとつ説明しなかったという。
返金を求めると、最初は「工面する」と応じた。だが、そのうち態度が変わる。
「返してほしければ、訴えればいい」
K氏は途方に暮れた。現金で手渡したため領収書もなく、記録も一切残していなかったからだ。それでも彼はメディアに持ち込んだ。「この不正の仕組みそのものをなくしてほしい」と訴えている。
この告発は、タイ全土で燃え広がっている地方公務員採用試験の不正疑惑と地続きだ。11日には地方自治振興局が、採用名簿に名前がなかった受験者向けに得点開示の申請窓口を8月13日から31日まで開設すると発表。国家汚職防止取締委員会(NACC)は、2564年(2021年)のパタヤ市幹部採用試験をめぐる不正についても特別案件として調査に着手しており、同一の組織が関与している可能性を見ている。
南部サトゥーン県では、地方試験をめぐって金銭を要求したとして元自治体長が逮捕され、現金120万バーツが押収された。金額の相場は1人あたり30万〜70万バーツと報じられている。
コラートの父親が渡した20万バーツは、その相場からすればむしろ安い部類に入る。だが手付け20万バーツは、地方の家庭にとって決して小さな金額ではない。息子の名前がなかった紙の前で、その重さだけが残った。