
タイの製造業で、閉鎖する工場の数が新しく開く工場の数を上回った。10四半期ぶりの逆転である。国家経済社会開発委員会(NESDC)の統計が示したこの数字は、タイの中小企業(SME)が置かれた状況を端的に表している。
大企業は投資を続けている。EV関連、電子部品、データセンターといった分野では新規の設備投資が積み上がり、東部経済回廊(EEC)への投資も伸びた。にもかかわらず工場の総数がマイナスに転じたのは、その足元で中小の工場が静かに閉じているからだ。
3つの逆風
タイ工業連盟(FTI)の副会長で中小企業研究所を率いるウィーラチャイ・マンシントー氏は、閉鎖が相次ぐ理由を3つ挙げる。
1つ目はコストの上昇である。「労働賃金、電気代、輸送費が同時に上がっている」。2つ目は国際競争の激化で、低コスト国からの製品がタイ国内市場に流れ込んでいる。3つ目が技術面の遅れだ。自動化への対応が遅れた工場は、価格でも納期でも太刀打ちできなくなる。
加えて、銀行の融資審査が厳格化していることが資金繰りを圧迫している。売上が落ちた工場ほど借りにくくなるという構造が、退出を加速させる。
サプライチェーンから外れる恐怖
最も深刻なのは、SMEが産業のサプライチェーンから脱落するリスクだと指摘される。タイの製造業は、自動車と電子機器の分野で長年にわたり多層的な下請け構造を築いてきた。その最下層が薄くなれば、上流の大企業も国内調達を続けられなくなる。海外からの部品輸入が増えれば、タイ国内での雇用と技術の蓄積が失われる。
ウィーラチャイ氏が示した処方箋は3つ。高付加価値製品への転換、リーン生産方式による効率化、そして企業間ネットワークの構築である。いずれも一朝一夕には進まない。
大企業だけが伸びる経済
タイの第2四半期GDPは1.9%成長にとどまり、ASEAN主要6カ国のなかで最下位に沈んだ。マクロの数字が示す停滞と、工場の閉鎖という現場の数字は同じ方向を向いている。
大企業は拡大し、中小は退場する。その差が広がったまま経済全体が伸びれば数字は取り繕えるが、雇用の大半を抱えているのは中小のほうだ。工場のシャッターが1枚下りるたびに、そこで働いていた人たちの購買力も一緒に落ちていく。