
詐欺グループの資金洗浄に使われる、いわゆる「他人名義の飛ばし口座(バンチー・マー)」。その名義人に、いま子どもが使われている。タイ中央銀行の集計によれば、子ども名義の飛ばし口座は前年比70.3%も増加した。中銀はついに、年齢別の送金上限という異例の措置に踏み切る。
10〜11歳は「1日3000バーツまで」
中銀が打ち出したのは、未成年の口座に対する送金限度額の引き下げだ。10〜11歳の口座については、1日あたりの送金上限を3000バーツに設定する。子どもの日常生活で必要となる金額をはるかに超える資金移動を、そもそも技術的に不可能にするという発想である。
飛ばし口座とは、詐欺グループが被害者からの送金を受け取り、資金の足取りを断つために使う他人名義の銀行口座を指す。名義を貸した側は「口座を貸しただけ」と思っていても、法的にはマネーロンダリングの共犯に問われる可能性がある。
なぜ子どもが狙われるのか
理由は単純だ。まず、金銭的な誘惑に弱い。SNSで「口座を貸すだけで数千バーツ」と持ちかけられれば、小遣い数カ月分に相当する。そして、子ども名義の口座は当局のリスク検知の網から漏れやすい。さらに、未成年であることが摘発を難しくするという計算も働く。
「うちの子が何に使われているのか、親はまず気づかない」――金融犯罪対策に携わる関係者は、そう危機感を語る。
親が知っておくべきこと
タイでは近年、コールセンター詐欺と投資詐欺が社会問題化し、資金の流れを断つ「口座対策」が対策の中心になっている。金融機関は不審な取引パターンの口座を凍結する権限を強化され、口座の売買自体を処罰する法整備も進んだ。
それでも供給側は絶えない。むしろ、規制が厳しくなった大人の口座を避け、より監視の緩い層へと需要が移動しているというのが実情だ。子ども名義口座の70.3%増という数字は、その移動の結果にほかならない。
SNSでも警戒の声が広がっている。「子どもが急に現金を持っていたら要注意」「学校でも教えるべき」「口座を貸したら犯罪者になると、はっきり伝えないと分からない」。
タイに暮らす日本人家庭にとっても他人事ではない。子どもがタイの銀行口座を持っている場合、送金履歴を定期的に確認しておくことは、いまや家庭内の基本的な防衛策といえる。口座は財布ではなく、身分証明書に近い。貸せば、その人生ごと貸すことになる。
