タイ東北部、通称「イサーン」。ここは信心深い人々が多く住む土地だが、同時に「ギャンブル(宝くじ)への執念」が世界一強い場所としても知られている。今、この地である「猫」が救世主として崇められているという。それも、生きている猫ではない。亡くなった直後の猫である。
ある日の午後、ナコンラチャシマ県にある小さな農村で、一匹の老猫「マミー」が息を引き取った。15年間にわたり飼い主に愛された、何の変哲もない三毛猫だ。しかし、飼い主の老婆がその遺体を見つけた瞬間、悲しみは驚きへと変わった。マミーの死体が、どう見ても数字の「5」と「8」が絡まり合ったような、不自然な曲線を描いて硬直していたのだ。
「これは、マミーが最後に残してくれた“お告げ”に違いない!」
老婆が叫ぶと、その声は風に乗って村中に広がった。タイにおいて、動物の死や奇形、あるいは樹木の節が数字に見えることは、神様からの「当選番号のヒント」と解釈される。老婆の家には、マミーの死後わずか1時間で、手に手に線香と花を持った村人が押し寄せた。
現場はまさにカオスだ。遺体の周りには色鮮やかな布が巻かれ、高価な香木が焚かれる。村人たちは一心不乱に手を合わせ、「58…いや、尻尾の先が曲がっているから583だ!」「前足の指の数は4本、これは458だ!」と、もはや解読班のような勢いで死体を凝視する。
噂を聞きつけた周辺の村からも人々がトラックの荷台に乗って駆けつけ、老婆の家の前は身動きが取れないほどの大渋滞に。ついには「宝くじの露天商」までが現れ、その場で「58」に関連する番号のチケットを売り始めるという、タイならではの商魂逞しさを見せた。
「不謹慎だ」という声がどこからか聞こえてきそうだが、村人たちに迷いはない。一人の男性(52)は興奮気味に語る。「俺は先月の借金があるんだ。マミー様はこの村の窮地を救うために、あのポーズで亡くなったんだよ。これは単なる死体じゃない、黄金のチケットだ!」
結局、騒ぎを聞きつけた地元警察が出動。「死体を公衆の面前に晒し続けるのは衛生上問題がある」と説得を試みたが、村人たちは「当選番号が確認できるまでは埋葬させない!」とバリケードを築いて抵抗。最終的に、地元の高僧が呼ばれ、「マミーは数字を授けた後、天国で安らぎたいと言っている」という超法規的な説法を行うことで、ようやく騒動は収束した。
マミーは盛大に供養されたが、村人たちの手元には大量の「58」関連の宝くじが残された。当選発表日は明日。もしこれで「58」が出なかった場合、村の空気はどうなるのか。それとも、さらなる「新説」が生まれるのか。タイ人の宝くじにかけるエネルギーは、もはや一つの宗教的トランス状態と言っても過言ではない。