
バンコクの高架鉄道BTS車内で騒いでいたイタリア人学生グループが、注意したタイ人女性に暴言と侮辱的なジェスチャーを浴びせた問題は、7月25日夜、学生らが女性に直接謝罪し、警察が罰金処分を科すことで正式に決着した。動画拡散からわずか3日、在タイ・イタリア大使館の謝罪や、学生らへのネット上の集中攻撃にまで発展した騒動は、双方が「これ以上の誹謗中傷をやめてほしい」と呼びかける形で幕を閉じた。
「タイに金を落としてやっている」——発端となった動画
騒動が始まったのは7月23日。SNS上のアカウント名「Sugus(スーガス)」として知られるタイ人女性が、BTS車内で撮影した動画を投稿したことがきっかけだった。
動画には、大声で騒ぐ外国人の若者グループに対し、女性が静かにするよう丁寧に求める様子が映っている。しかし若者らは応じるどころか、笑いながら女性をあざけり、中指を立てるなどの挑発的な態度を取った。中でも「あなたの国にお金を落としてやって申し訳ないね(Sorry that we brought money to your country)」という発言が、タイのSNS利用者の怒りに火をつけた。
動画は数時間で拡散し、タイのマスコミも相次いで報道。「金があれば敬意は買えない」といった批判がSNSにあふれた。
大使館が異例の謝罪、学生らはネットリンチの標的に
若者らは、学校の教育旅行でタイを訪れていたイタリア人の未成年者グループだった。
批判は在タイ・イタリア大使館のFacebookページに殺到し、同ページは一時コメント欄を閉鎖。抗議はイタリアのメローニ首相のSNSアカウントや、グループが宿泊していたホテルのレビュー欄にまで及んだ。
7月25日午前11時30分頃、同大使館は3か国語による声明を発表。「学校の教育旅行に参加していたイタリア人未成年観光客グループの不適切な行為に深い遺憾の意を表し、強く非難する」とし、「タイ国民、およびこの件で影響を受けたすべての方々に心からお詫びする」と謝罪した。大使館は同時に、学生4人が直接謝罪する95秒の動画も公開した。教育旅行を主催した事業者も別途、謝罪声明を出している。
タイ警察も動いた。王立タイ警察のトライロン・ピウパン副監察長(報道官)は同25日、「タイ王国内で起きた事件である以上、タイ人であれ外国人であれ、タイで罪を犯した者はタイの法律に従って処罰される」と明言。侮辱罪などでの告訴が可能であり、要件を満たせばビザ取り消しの検討もあり得るとの見解を示した。
サムレー警察署での1時間 「私に謝っているの?」
女性は25日午後、サムレー警察署に被害届を提出。警察はグループ6人全員を署に呼び、同日夜、通訳を交えた話し合いの場が設けられた。
1時間を超えるやり取りの末、学生と引率者は自らの行為が不適切だったと認め、正式に謝罪した。女性が自身のTikTokアカウントに投稿した動画では、6人全員が合掌(ワイ)して頭を下げる姿が映っている。
「私に謝っているの?」という女性の問いかけに、赤い服の女子生徒はこう答えた。「あなたに、そしてタイのすべての人々と、あなたのご家族に謝罪します」。他のメンバーも続いて謝罪の言葉を述べた。
双方は、事件に関する写真や動画をスマートフォンおよびSNS上からすべて削除することで合意。女性も、イタリア人グループが写った画像を削除すると表明した。
罰金1000バーツ「軽いかもしれないが、警察の判断を尊重する」
警察は5人を「面前での侮辱罪」で立件し、それぞれ1000バーツの罰金を科した。中指を立てたとされる1人には「公然わいせつ・公衆に恥辱を与える行為」の罪が追加され、罰金は計2000バーツとなった。罰金の納付をもって、事件は法的に終結した。
女性は投稿の中で、侮辱罪の罰金上限は1万バーツであるものの、警察が早期解決のために1000バーツを提案したと説明。「彼らにとって厳しい罰ではないかもしれない」としつつ、「捜査員の裁量と助言を尊重する」と記した。その上で、謝罪に誠意と反省が感じられたこと、非を認めて謝った人にはもう一度チャンスを与えるべきだと考えていることを、和解に応じた理由に挙げた。
「誰も憎まれるべきではない」——両者への攻撃に歯止めを
決着後、女性は謝罪したイタリア人女子生徒と抱き合う写真を投稿し、「彼女は誠意をもって私に謝ってくれた」と書き添えた。侮辱され嫌がらせを受けていた自分を守り、支えてくれた人々への感謝も述べている。
一方で女性は、この女子生徒が現在、侮辱や脅迫、「死ね」といったメッセージを含む激しい嫌がらせを受けていると指摘。それは自分が受けたものと同じ種類の攻撃だとして、「どちらの側にも、同じ目に遭ってほしくない」と嫌がらせの中止を訴えた。
「事態をエスカレートさせたり、特定の国籍への憎悪を生んだりすることは望んでいなかった。最初から、侮辱と嫌がらせから自分の尊厳と権利を守ることだけが目的だった」
女性はまた、告訴に踏み切ったのは自らの権利と尊厳を守るためであり、タイを訪れる人々に他者の権利とタイの文化・社会的礼儀を尊重するよう促す意図があったと説明。今回の一件を「タイ人も外国人も等しく敬意を受けるべきで、誰も侮辱や嫌がらせを受けてはならない」という共通の教訓とすべきだと結んだ。
話し合いに同席した女性の父親も、学生らにタイの文化と礼儀について説明したと明かし、「彼らは過ちを認めた」として、これ以上の批判を控えるようSNS利用者に呼びかけた。
イタリア人学生グループは、その後も数日間にわたりタイでの研修プログラムを続ける予定だという。
事件の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 7月23日 | BTS車内での口論の動画がSNSに投稿され、拡散開始 |
| 7月24日 | タイ国内で批判が急拡大。教育旅行の主催事業者が謝罪 |
| 7月25日 午前 | 在タイ・イタリア大使館が3か国語で謝罪声明。学生4人の謝罪動画も公開 |
| 7月25日 午後 | タイ警察が「外国人もタイの法律に服する」と表明。女性がサムレー署に被害届 |
| 7月25日 夜 | 学生・引率者と女性が同署で面会。謝罪と罰金納付により和解成立 |
