
タイ中部チャチュンサオ県は7日、バンクラー郡サメットタイ地区にあるユダヤ人墓地「JEWISH CEMETERY THAILAND」に対し、施設の撤去と墓地内の遺体の移送を命じた。県知事が行政命令を出したのは今回が初めて。墓地の営業許可が2023年末に失効し、更新が認められていないにもかかわらず、複数の埋葬が行われていたことが今回確認された。
県知事の命令は、墓地内の建造物を撤去するとともに、埋葬または安置されている遺体を、法的に許可を受けた民間墓地・火葬施設へ移すよう求めている。期限は命令を受けた日から7日以内。
問題の墓地を巡っては、2021年4月に墓地・火葬場の運営許可が下りた。申請者はタイ企業のGan Chabad Co., Ltd.で、許可期間は3年間だった。
ところが、2023年12月に事業者が許可更新を申請した際、地元住民からの苦情を受けて行政当局が現地を調査。墓地の位置が法令上の基準を満たしていないとして、更新を認めなかった。
タイ内務省地方行政局が9月4日に公表した説明によると、墓地の壁から公共水路までの距離は187メートルで、規則が定める400メートル以上を満たしていなかった。また、墓地から公道までの距離も3.6~9メートル、入口からは約6メートルにとどまり、規定の50メートル以上を大きく下回っていた。
事業者側は更新不許可を不服として2024年10月に内務相への不服申し立てを行ったが、期限を過ぎていたとして受理されなかった。現在は行政裁判所で争われている。
この間、墓地を巡る問題が再び表面化したのが9月初旬だった。SNS上で、バンコク近郊に「New Jewish Cemetery」を整備し、最大約1,200区画を確保する計画があるとの情報が広がった。これを受け、地元住民から「チャチュンサオの施設ではないか」との懸念が広がり、行政が改めて現地を調査した。
9月4日にバンクラー郡当局、警察、自治体、地域行政関係者らが墓地を調査したところ、4つの埋葬区画が確認された。現地紙によると、壁際に1カ所、青いテントの内部に3カ所あり、うち3カ所はコンクリートで封鎖され、墓標も設置されていた。墓標には2025年および2026年の死亡年が記されていたという。
行政側は、少なくとも3体については許可失効後に埋葬された可能性が高いとみている。一方、4体目については許可が有効だった時期の埋葬だった可能性があるとしており、遺体の埋葬時期については今後の確認が必要だ。県が7日に出した命令は、墓地内に残る遺体を合法的な施設へ移すことを求めている。
地元住民の間では、墓地が住宅地や農地、学校、医療施設、公共水路などに近いことから、環境面への懸念も出ている。住民側は2023年から行政に調査を求めてきたと説明している。
行政側は一方で、宗教そのものを問題にしているわけではなく、墓地の設置場所と運営がタイの法令上の基準を満たしているかが問題だと説明している。副内相のポラピー・スワンチー氏も、今回の問題を受け、全国約1,200カ所の墓地・火葬施設について許可状況などを確認するよう指示した。特定の国籍や宗教を対象とした調査ではないとしている。
今回の行政命令を巡っては、墓地の撤去だけでなく、既に埋葬された遺体をどのような手続きで移送するかが焦点となる。ユダヤ教では埋葬を重視するため、単なる施設撤去とは異なる宗教上の配慮も必要になる。
タイのユダヤ人コミュニティーは、バンコクの既存墓地が満杯に近づいていることを背景に、チャチュンサオで新たな墓地を確保したと説明していた。ユダヤ人コミュニティーの公式サイトによると、同墓地は数年前に取得され、2026年5月時点で「新しい墓地」で3人目の埋葬が行われたとしている。
ただ、タイの行政当局は、許可更新が認められていない現在の施設での埋葬を認めていない。今後は、行政命令に対する事業者側の法的対応と、既に埋葬された遺体の移送をどう進めるかが焦点となる。
今回の問題は、外国人コミュニティーの宗教施設であっても、土地利用や墓地の設置についてはタイ国内法の規制を受けることを改めて示した形だ。県当局は墓地問題を個別施設の問題にとどめず、全国の墓地・火葬場の許認可についても調査を広げる方針である。
