
タイ政府が、電気自動車(EV)の優遇基準を作り直す。既存の自動車メーカー、とりわけ長年タイに生産基盤を築いてきた日本勢が不利にならないよう、条件を組み替えるのが狙いだ。
8月21日、アヌティン・チャーンウィーラクン首相兼内相が記者会見で明らかにした。エカニット・ニティタンプラパット副首相兼財務相に対し、新しいEV奨励基準の見直しを指示したという。
「投資家を見捨てることはできない」
首相は日本の自動車産業について、具体的に言及した。「エンジン、ボディ、シャーシなど主要部品がすべてタイ国内で日本ブランドのもとで製造されている。投資家を見捨てることはできない重要課題である」
そのうえで政府の基本姿勢をこう説明した。「政府の基本方針は開放的であり、条件改善に準備がある。長期的な経済協力に重点を置き、タイにおける日本の強固な生産基盤を維持したい」
この発言は、日本資本がタイから撤退しつつあるという観測を打ち消す意図を含んでいる。首相は投資実績の数字も示した。前年の外国直接投資は1兆バーツを超え、今年上半期も5300億バーツに達しており、生産移転の兆候はないという説明である。
EV3・EV3.5がもたらした不均衡
タイ政府はこれまで、EV3およびEV3.5と呼ばれる優遇措置で、EVの輸入と国内生産を強力に後押ししてきた。輸入EVに補助金を出し、後に国内生産で埋め合わせるという枠組みである。中国メーカーがこの制度を使って一気にシェアを伸ばし、タイは東南アジア最大のEV市場になった。
一方で、内燃機関やハイブリッド車を中心にタイで生産してきた既存メーカーからは、条件が不公平だという声が上がっていた。タイでの上半期の新車販売では輸入EVが半分を占め、日本メーカーからは輸入関税の引き上げを求める要請も出ている。
タイ製造業の土台をどう扱うか
タイの自動車産業は、40年以上にわたって日本メーカーの現地生産に支えられてきた。部品メーカーを含めた裾野産業は数千社規模におよび、雇用のボリュームも大きい。EVへの転換を急げば、その裾野が先に痩せる。
今回の見直しは、EV普及の速度を落とす方向ではなく、既存の生産基盤を残したまま転換を進めるための調整とみられる。具体的な基準の内容と適用時期は、財務省と投資委員会(BOI)での検討を経て示される見通しだ。
補助金の設計ひとつで、どの国の工場が生き残るかが決まる。タイの自動車産業は、その分岐点にもう一度立っている。