
屋台の明かりが並ぶ物産イベントの会場に、乾いた破裂音が響いた。逃げ惑う人波のなかで、若い男が背中から崩れ落ちる。体に食い込んだ散弾は13発。タイ東北部ナコンラチャシマ県(コラート)ダンクントット郡で8月12日午後10時半すぎ、自作の散弾銃を持った男が群衆に向けて発砲した。
現場は同郡クンタット像前の広場で開かれていた物産即売イベント「チム・チョップ・チャイ」の会場だ。地元の家族連れや若者でにぎわう時間帯だった。逮捕されたのはナッタキット容疑者(32)。散弾を広く散らす自作の長銃身と刃物を手にしていたとされる。
バイクを盗もうとして捕まり、仲間を連れて戻った
タイ警察の調べに対し、ナッタキット容疑者は「会場でバイクを盗もうとしたところ、持ち主に見つかった」という趣旨の供述をしている。取り押さえられ、イベント関係者に引き渡されそうになった容疑者はいったん逃走。そのまま帰らず、武器を持った仲間を連れて会場に舞い戻ったという。盗みの失敗に対する報復だった。
負傷したのは6人。プラコップさんは背中と指に刃物による傷、ストンさんは右腕を撃たれ、スパワニーさんは両脚に2発と破片による傷を負った。パナダーさんは左腕。「テー」と呼ばれる男性は背中に9発。そして最も重いのがウィーラウットさんで、全身に13発の散弾を受け、意識が戻らないまま搬送された。もう1人も緊急手術を待つ状態だ。
「銃規制の直後にこれか」──広がる嘆き
タイでは今月、アヌティン首相が拳銃の携帯を原則禁止する方針を打ち出したばかりだ。それだけに、SNS上では「規制を強めた直後にこれか」「登録された銃を締め付けても、自作の銃には効かない」といった趣旨の書き込みが相次いだ。イベント会場という誰でも入れる場所が狙われたことへの恐怖を訴える声も目立つ。
タイ国内で流通する密造銃は、パイプと火薬で作られる粗雑なものが多い。命中精度は低いが、至近距離で散弾をばらまけば被害は広範囲に及ぶ。今回、1人の被害者が13発、別の1人が9発を受けたという事実が、その特性を物語っている。
警察はまず「銃器を使用した殺人未遂」で立件する方針を示し、追加の容疑についても捜査を続けるとした。逃走した共犯者の行方も追っている。バイク1台を盗み損ねた腹いせに、6人が病院へ運ばれた。タイの地方都市の夏祭りは、そういう夜になってしまった。