バンコク南西部バンボン区の一軒家。表向きは何の変哲もない住宅だったが、2階に上がると壁一面に日本語の詐欺スクリプトが貼られ、隣室には日本の警察署のロゴを模した紙まで飾られていた。9月16日、移民局はこの家を急襲し、タイ人1人を含む合計15人を拘束した。外国人14人の内訳は日本人、中国人、台湾人、ミャンマー人だという。
近隣住民からの通報がきっかけだった。「昼夜を問わず知らない外国人が出入りしていて、カーテンは一度も開いたことがなかった」。不審に思った住民が警察に相談し、裁判所の令状を得た当局が家宅捜索に踏み切った。
日本語の台本と偽の警察ロゴ
捜索に入った捜査員は「1階は普通の生活空間だったが、2階に上がった瞬間に空気が変わった」と振り返る。壁には日本語で書かれた詐欺の応答マニュアルがびっしりと貼られ、被害者に電話をかける際のせりふ回しまで細かく指定されていたという。「不正な荷物が届いている」と切り出し、次に警察官を名乗って「あなたの口座に不正な取引がある」と脅し、送金させる手口だったと当局は説明した。
グループはコンピューターや携帯電話、両替用のICチップのほか、麻薬関連の物品まで押収された。捜査幹部は「タイ国内に拠点を置きながら、日本人を狙い撃ちにした極めて組織的な詐欺グループだった」と述べ、「電話の向こうにいるのが本物の警察官かどうか、一度電話を切って公式番号にかけ直す習慣をつけてほしい」と呼びかけた。
逃げた中国人ボス、国内潜伏か
グループを指揮していたとされる中国人の男は家宅捜索の直前に姿を消しており、依然としてタイ国内に潜伏している可能性が高いとみて当局が行方を追っている。拘束された14人の外国人については、それぞれの入管記録や滞在資格を照合したうえで、詐欺および不法就労の容疑で立件する方針だという。
SNS上ではこのニュースが拡散し、「日本にいる親にも同じような電話がかかってきたことがある、他人事じゃない」「バンコクの普通の家がまさかこんな拠点になっているとは」「日本の警察のロゴまで用意する手口の細かさに逆に感心してしまう」といった趣旨の書き込みが相次いだ。在タイ日本人コミュニティの間でも、実家の家族に注意を呼びかける投稿が目立った。
今回のような特殊詐欺拠点は国境を越えて日本人を標的にするケースが後を絶たない。タイ側の摘発が進む一方、指揮役の中国人が国外や別の潜伏先に逃れれば捜査は振り出しに戻りかねない。息の長い追跡が続きそうだ。