投票用紙に印刷された1本のバーコードが、憲法違反かどうか。タイ憲法裁判所は、2026年9月28日午後2時に判決を言い渡すと発表した。争われているのは、同年2月8日に実施された下院総選挙の投票用紙だ。
訴えを起こしたのは、オンプラチャイ・クランワリン検察官。投票用紙に付されたバーコードとQRコードが、投票者の身元や誰に投票したかを特定・追跡できる状態を生み、憲法が保障する「投票の秘密」を侵害していると主張している。被告となっているのは選挙管理委員会(ECT)だ。
証人5人と、保管場所の実地検証
憲法裁は8月26日に証人尋問を行い、5人から話を聞いた。証言に立ったのは、コンピューター技術者、選挙支援部門の責任者、印刷を請け負った企業の役員、選挙管理委員会の事務次官らで、いずれも技術的な仕組みについて説明したとされる。
続く8月27日には、投票用紙が保管されている場所での実地検証が行われた。バーコードとQRコードが実際にどのような情報を含み、読み取った場合に何が分かるのかを、裁判官が直接確認する狙いとみられる。
「管理のため」か「追跡できてしまう」か
選挙管理委員会側は、これまで一貫して、コード類は投票用紙の偽造防止と枚数管理のためのものであり、個々の投票者と結びつけることはできないとの立場を示してきた。用紙の連番管理は各国の選挙でも一般的な手法だ。
これに対して原告側は、印刷段階の管理台帳と照合すれば、どの投票所のどの束の何番目の用紙かまで特定できる以上、理論上は追跡が可能だと反論している。「実際にやったかどうかではなく、やれる状態にあること自体が秘密投票の侵害にあたる」というのが主張の骨子だ。
この訴訟の行方は、2月の総選挙の効力そのものにも影響しうる。憲法裁が違憲と判断した場合、選挙の一部または全部のやり直しを求める議論に発展する可能性があるためだ。逆に合憲となれば、現行の投票用紙管理方式が追認されることになる。
タイでは近年、憲法裁判所の判断が首相の失職や政党の解散といった形で政局を直接動かしてきた経緯がある。2月の総選挙を経て発足した現政権にとっても、9月28日は無視できない日付になる。
選挙管理委員会は判決までコメントを控える方針を示している。一方、原告側は「裁判所が技術の中身まで見に行ったこと自体に意味がある」と述べ、実地検証を評価した。
用紙に印刷された縞模様が、有権者の秘密を守る道具なのか、それとも覗き穴なのか。答えが出るまで、あと1カ月ある。