自宅を守るための砂袋が、命を奪う重荷になった。タイ中部サムットプラカーン県のサムロン運河で26日未明、洪水対策用の砂袋を買いに出た兄弟2人が乗ったボートが転覆し、いずれも死亡した。
亡くなったのは17歳と20歳の兄弟。近隣で洪水被害が広がる中、自宅の浸水を防ごうと、対岸の販売所まで砂袋を買いに向かっていたところだったという。
「積みすぎたボートが一瞬で沈んだ」
目撃した近隣住民の男性は「砂袋をぎっしり積んだ小舟が運河を渡ろうとしていた。急に水面が波立ったと思ったら、あっという間に舳先から沈んでいった」と証言する。運河は連日の降雨で水量が増し、流れも普段より速くなっていたとみられる。
兄弟の母親は現場に駆けつけ、泣き崩れながら「まさか砂袋を取りに行っただけでこんなことになるなんて。せめて誰か一緒についていってあげればよかった」と声を絞り出した。近所の住民たちは「うちも同じように何往復もして砂袋を運んでいた。他人事とは思えない」と口をそろえる。
「荷物の重さと水位を甘く見ないで」
通報を受けた地元警察の担当者は「積載量を超えた小型ボートは、少しの波でもバランスを崩しやすい。特に増水時は流れが読みにくく、非常に危険だ」と注意を呼びかけた。県の水難救助隊は、今後も洪水対策の物資輸送でボートを使う住民に対し、救命胴衣の着用と1人での渡河を避けるよう周知を強化するという。
SNS上では「対策をしようとした結果がこれでは悲しすぎる」「行政が砂袋を各戸に配送する仕組みを作ってほしい」といった書き込みが広がった。中には「自分も昨日、同じくらい荷物を積んだボートで運河を渡った。他人事ではない」という投稿もあり、多くの住民が我が身に置き換えて事故を受け止めている様子がうかがえた。
葬儀会場に近隣住民が続々
兄弟の自宅に設けられた葬儀会場には、事故当日から近隣住民が続々と訪れ、線香を手向けた。親族の女性は「2人は仲の良い兄弟で、弟が兄の後についてどこへでも行くような間柄だった。一緒に逝ってしまうなんて」と涙をぬぐった。地元の学校教師は「弟の方は来年、大学進学を控えていた。将来のある若者を2人も一度に失うのは、地域全体の損失だ」と肩を落とした。
県の水難救助隊は、今後も洪水対策の物資輸送でボートを使う住民に対し、救命胴衣の着用と1人での渡河を避けるよう周知を強化するという。洪水はまだ収まる気配がなく、住民の間には「次は自分たちかもしれない」という不安が漂う。自宅を守るはずの行動が、かけがえのない家族を奪う結果になった今回の事故は、増水期の水辺の怖さを改めて突きつけている。