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バンコク都内被災地の透析患者、洪水3日目の断食で命をつなぐ

バンコク都内ラートクラバン地区のケハヤ・ロムクレオ住宅地に暮らす50歳の女性は、通称「マー・ダー」。慢性腎臓病を患い、定期的な人工透析が欠かせない体だ。だが9月29日時点で、彼女はすでに3日間、透析治療を受けられずにいた。洪水で通院の足を断たれたためだ。

「40年住んでいるが、こんなことは初めて」

マーダーさんはこの地域に40年近く暮らしてきた。「40年ここに住んでいるが、このような状況は経験したことがない」と語る。周辺一帯は記録的な豪雨による浸水で道路が寸断され、透析治療を行う医療機関への移動手段がない状態が続いている。

透析を受けられない期間が長引くほど、体内の老廃物や水分が排出されずに蓄積し、腎臓疾患のある患者にとっては命に関わるリスクが高まる。マーダーさんは治療を受けられない間、自らできる対処として食事の量を極端に制限し、「断食のような状態で病態悪化を防いでいる」と説明する。水分や塩分の摂取を抑えることで、透析なしでも身体への負担を少しでも軽くしようとする、いわば苦肉の策だ。

陸軍が支援も、医療の壁は残る

地域にはタイ陸軍の部隊が朝9時から夕方まで継続的に支援活動を展開しており、食糧配布や被災住民の移送を担っている。上水道が使えない地域では飲料水の供給が特に切実な課題となっており、陸軍の給水支援が住民の生命線になっている面もある。

ただし、透析のような専門的な医療行為は、食糧や水の配布だけでは代替できない。マーダーさんのように定期通院が生命維持に直結する患者にとって、道路の冠水が続く限り、治療へのアクセスそのものが遮断されるという深刻な事態が続く。マーダーさんを医療機関に搬送する具体的な計画についての情報は明らかになっておらず、地域の医療体制がどこまで機能しているのかは不透明なままだ。

浮き彫りになった「見えない被災者」

洪水報道では倒壊した家屋や濁流に流される車の映像が注目を集めがちだが、マーダーさんのように持病を抱え、日常的な医療サービスへのアクセスを断たれた住民の存在は見過ごされやすい。バンコク都内だけでも同様の状況に置かれている透析患者、人工呼吸器の利用者、定期投薬が必要な患者は少なくないとみられる。

洪水が長期化するなか、被災地では「命をつなぐインフラ」としての医療アクセスの確保が急務となっている。マーダーさんの断食は、制度の隙間に落ちた患者が編み出した、切実な自己防衛の手段にほかならない。

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