タイ東部ラヨーン県メーアンプ区サムナックトーン地区で、鉄砲水にのまれた乗用車に乗っていた56歳の中国人実業家が行方不明になり、2日後に遺体で発見される痛ましい事故があった。
2台の車を襲った突然の激流
事故が起きたのは2026年9月26日。実業家の男性は、友人が運転するピックアップトラックの後を追って乗用車を走らせ、工業団地近くの道を通行していた。その最中、突如として猛烈な勢いの鉄砲水が2台を同時に襲った。水の流れは非常に速く、前を走っていたピックアップトラックは脱輪したものの、乗っていた人は車外に脱出して無事だった。
一方、後ろを走っていた男性のセダンは水の勢いに押し流され、そのまま灌漑用水路に転落。車ごと水中に消え、男性の行方が分からなくなった。
200メートル下流で見つかった遺体
地元当局と救助隊は直ちに捜索を開始したが、濁った水路の中での捜索は難航した。9月28日午後になって、車が流された地点から下流約200メートルの場所で、ようやく男性の遺体が発見された。ラヨーン県の救助隊が遺体を収容し、病院へ搬送するとともに、詳しい死因の調査を進めている。男性が外国籍であることから、当局は中国大使館への連絡手続きも進めた。
洪水下の「見えない危険」
タイでは記録的な豪雨が続き、道路が突然、川のような激流に変わるケースが各地で報告されている。今回のように、普段は目立たない水路や側溝が短時間で牙をむき、車ごと人を飲み込む例は少なくない。当局は冠水した道路を無理に通行しないよう改めて呼びかけているが、工業団地や住宅地の近くでも「まさかここが」という場所で被害が起きている現実が浮き彫りになった。
「助けを呼ぶ声を聞く間もなかった」目撃した友人
一緒に走行していたピックアップトラックの運転者は「自分の車が脱輪した直後、後ろを見たらもう彼の車の姿がなかった。助けを呼ぶ声すら聞こえなかった」と、当時の状況をラヨーン県の当局者に説明したという。2日間にわたる捜索の末に遺体が発見されたとの知らせを受け、現地の中国人コミュニティーの間にも動揺が広がっている。
タイ国内のSNSでは「冠水した道は本当に危険。友人を待たずに引き返すべきだった」「工業団地の近くにこんな水路があるとは知らなかった」「ご遺族にお悔やみを申し上げます」といった趣旨の投稿が寄せられた。当局は地元住民や外国人居住者に対し、増水時には決して水路や冠水道路に近づかないよう重ねて注意を呼びかけている。
外国人にも及ぶ洪水の脅威
ラヨーン県には日系を含む多くの工業団地が立地し、外国人駐在員や実業家が日常的に往来している。今回犠牲になった男性も、周辺で事業を営む中国人実業家だったとみられ、国籍を問わず洪水の脅威が及んでいる実態を示す事例となった。地元の救助関係者は「土地に不慣れな外国人ほど、どこが危険な水路かを把握しづらい。看板の設置や情報発信の多言語化も検討したい」と話しているという。中国大使館は遺族への支援や今後の手続きについて、タイ当局と連携を進めているとみられる。