東南アジア「詐欺拠点」からの大規模救出 ―― その「絶叫」と「脱出」の48時間

ミャンマーやカンボジアに点在する特殊詐欺拠点から、各国当局や武装勢力の掃討作戦によって1,500人以上が救出された――。その多くは、仕事を装った求人で騙され、監禁され、暴力と強制労働を強いられていた人々だ。この「1,500人」という数字の裏には、1,500通りの“地獄”がある。彼らを単なる「被害者」という言葉で括るには、その体験はあまりにも凄惨で、生々しい。そのうちの3名の生の声をお届けしたい。


「川の向こうは天国に見えた」―― モエイ川を泳ぎ切った32歳男性の独白

「隣のやつが沈んでいくのが見えた。でも、助ける余裕なんてなかった。止まれば、自分も流されるか、後ろから撃たれるか、どちらかだった」

東北部(イサーン)出身のウィチャイさん(仮名・32歳)は、ミャンマー側の詐欺拠点「KKパーク」から、国境のモエイ川を泳いでタイ側メソトへ脱出した一人だ。2025年10月、武装グループによる拠点の「清算」が始まった際、彼は混乱に乗じて逃げ出した。

「拠点のゲートが開いた瞬間、みんな一斉に走り出した。後ろでは書類を燃やす黒煙が上がり、兵士が空に向けて威嚇射撃をしていた。川は雨季の終わりで増水し、茶色く濁っていた。泳げないやつも構わず飛び込んだ。何人かが流されて、そのまま見えなくなった……。タイ側の岸に手が届いたとき、泥を掴みながら泣きました。やっと『人間』に戻れたと思ったんです」

ウィチャイさんは今も、夜中に川が流れる音を思い出すと、体が震えて止まらないという。

「4階から飛ぶか、電気ショックで死ぬか」―― 監禁された20代女性の決断

カンボジア南部のシアヌークビルにある、通称「黄金の塔」と呼ばれるビルに監禁されていたヌイさん(仮名・24歳)。彼女の腕には、今も生々しい火傷の跡が残っている。

「目標(ノルマ)に届かない日は、目隠しをされて、椅子に縛り付けられました。後ろから電気ショックを与えられ、体が跳ね上がるたびに、男たちが笑うんです。ある日、監視の男がトイレに立った隙に、私はベランダから外に出ました。そこは4階でした。でも、またあの椅子に戻るくらいなら、死んだほうがマシだと思った」

彼女は排水管を伝って降りようとしたが、途中で手が滑り、2階の高さから地面へ転落した。骨盤を骨折しながらも、必死に這って、通りがかったバイクタクシーに全財産を差し出し、警察署へ向かった。

「救出されたとき、警察官に『サワディー・カー(こんにちは)』と言われて、初めて自分が生きていることを実感しました。でも、あの中に残された友達は、まだあの椅子に座らされているかもしれません」

「俺の人生は10万バーツで売られた」―― コラート出身、元エンジニアの絶望

パトゥムタニの専門学校を卒業し、ITエンジニアを目指していたピパットさん(仮名・28歳)。「海外でのネットワーク構築」という求人に誘われ、ポイペトへ向かったのが運の尽きだった。

「到着した初日にパスポートを焼かれ、上司からこう言われました。『お前は10万バーツ(約43万円)で買った。元を取るまで帰さない』と。そこからは、SNSで偽の投資サイトを運営する毎日です。一度でも逃げようとすれば、地下室へ連れて行かれ、棍棒で殴られる。あそこは会社じゃない、屠畜場です」

ピパットさんは今年3月、拠点の火災に乗じて脱出に成功した。しかし、生還した彼を待っていたのは、警察による取り調べと「詐欺の共犯者」としての疑いだった。

「俺たちは被害者でありながら、加害者に仕立て上げられた。心も体もボロボロです。コラートの実家に帰っても、近所の目が怖くて外に出られません。あのビルにいた数ヶ月で、俺の人生は完全に壊れてしまった」

タイトルとURLをコピーしました