
走っている車から、中学生3人が飛び降りた。けがをする覚悟で。それでも車に乗り続けるほうが危ないと、彼らは判断した。8月16日、タイ東北部シーサケット県で、県代表選抜のボクシング大会から帰る途中のピックアップトラックから、中学生の選手3人が路上に飛び出す出来事があった。
3人を大会に連れて行ったのは、学校の教師だった。学校名も教師の氏名も、生徒たちの名前や年齢も公表されていない。分かっているのは、彼らが中学生のボクシング選手で、地方大会につながる県代表選考会に出場した帰りだったということだ。
「同じ場所をぐるぐる回っていた」
異変に気づいたのは帰路だった。生徒たちの説明によれば、運転していた教師は「酒を飲んでいる様子で、酔っていた」。車は同じ場所を何度も何度もぐるぐると回り、対向車と何度もぶつかりそうになったという。
「何度も他の車と衝突しかけた」。生徒たちはそう証言している。中学生が車内でその状況を眺めながら、どんな時間を過ごしたかは想像に難くない。逃げ場のない密室で、ハンドルを握っているのは自分たちを引率する立場の大人だ。
3人が飛び降りたのは、シーサケット〜クンハーン線沿いの精米所の近くだった。路上に転がり出た3人は、そのまま精米所の警備員のもとへ駆け込み、助けを求めた。
駆けつけた警察、迎えに来たのは別の教師
警備員からの連絡を受けて警察官が現場に到着し、事情を聴取した。その後、警察は別の教師に連絡を取り、3人はその教師に引き取られて無事に帰宅した。3人にけがはなかったと伝えられている。
タイでは、部活動や課外活動の遠征で、教師が自家用のピックアップトラックの荷台に生徒を乗せて移動することが珍しくない。都市部でも地方でも、それは日常の風景だ。だからこそ、運転する側の状態は、そのまま生徒の安全に直結する。
この件を伝える投稿には、タイのSNS上で「子どもが正しい判断をした」「飛び降りるほうが安全だと中学生に思わせた時点で終わっている」といった趣旨の書き込みが相次いだ。「学校はこの教師をどうするのか」「アルコール検査はしたのか」と、処分と検査の有無を問う声も多い。
一方で「よく無事だったな」という安堵の声も並んだ。走行中の車から飛び降りれば、打ちどころ次第では命に関わる。
県代表を目指して拳を交えてきた中学生3人が、その日いちばん怖い思いをしたのは、リングの上ではなく帰りの車の中だった。