
タイ北部チェンライ県で、元郡役場職員らが中国・ミャンマー系の外国資本と結託し、外国人に対してタイ人になりすますための国民IDカードを1件あたり10万バーツで偽造・販売していた疑いが浮上し、当局が摘発に乗り出した。土地や事業の名義を外国人がタイ人になりすまして取得する、いわゆる「ノミニー(名義貸し)」問題の温床になっていたとみられる。
捜査関係者によると、摘発されたのはチェンライ県内の郡役場に勤務していた元職員を含むグループ。戸籍情報を不正に操作し、実在しないタイ人としての身分、あるいは他人の身分を流用する形で国民IDカードを発行していたとされる。得たIDカードは、外国資本が土地取得や会社設立の際にタイ人名義を必要とする場面で使われていた疑いが強い。
地元関係者は「田舎の郡役場は人手も少なく、書類の真偽を厳密にチェックしきれない実情がある。そこに目をつけられた」といった趣旨の話をしている。捜査当局幹部は「1件10万バーツという金額は、末端の職員にとっては大きな誘惑だったのだろう。だが国の身分証制度そのものへの信頼を揺るがす行為であり、厳正に対処する」と述べた。
灰色資本のインフラ化するID偽造
タイ政府は近年、外国資本が国内法の規制を回避するために行う「ノミニー」問題を重点的に取り締まっている。プーケットやチョンブリなど観光地では、外国人が地元の学校やレンタカー業、飲食店などをタイ人名義で運営する事例が相次いで摘発されており、今回のチェンライの事件はその「入り口」となる身分証偽造の実態を裏付けるものとなった。
SNS上では「役場のなかに協力者がいたとは」「これでは誰の身分証も信用できなくなる」「観光地だけでなく地方の役場にまで浸透しているのは深刻」といった懸念の声が広がっている。当局は今後、他県の郡役場についても同様の不正がないか横展開で調査する方針で、関係する外国資本側の人物についても身元特定を進めている。
10万バーツで買われた「タイ人としての身分」――その裏には、国境地帯に根を張る灰色資本の存在が透けて見える。