
盗んだバイクで恋人と400キロ先のパタヤまで駆け落ちした男が、帰り道でガス欠になった。押して歩いているところを警察に捕まった。タイ南部ナコンシータマラート県で8月16日、そんな幕切れを迎えた窃盗事件が明らかになった。
捕まったのはタンヤテープ容疑者(24)。ナコンシータマラート県ムアン郡に住むタイ人の男だ。警察によると、犯行は7月17日にさかのぼる。同県サイサムット集落の民家の前に、鍵をかけないまま停められていた黒いスズキ「スマッシュ」に目をつけた。
手にしていたのはハサミ1本。イグニッションキーの穴に突き刺してこじ開け、配線を直結させてエンジンをかけた。後ろには恋人を乗せていた。2人はそのまま東へ走り、チョンブリ県パタヤを目指した。「仕事を探しに行った」というのが本人の弁である。
4日間の逃避行と、空になった燃料タンク
パタヤでの滞在は4日間。だが職は見つからなかった。2人は同じバイクで来た道を引き返す。そしてナコンシータマラート県ムアン郡まで戻ってきたところで、燃料計の針は完全に落ちた。
男はバイクから降り、路肩を押して歩き始めた。給油する金も残っていなかったとみられる。汗をかきながらハンドルを押す姿は、盗難バイクの手配情報を頭に入れていた警察官の目に、あまりにも都合よく飛び込んできた。
職務質問を受けた男は、車体番号の照会であっけなく素性が割れた。適用された容疑は「夜間の財物窃盗、または盗品等の収受」。事件発生からちょうど1カ月後の逮捕だった。
「追跡して確認し、車両を押収せよ」
捜査を指揮した幹部は、部下のナラック警部補の班に対し「追跡して確認し、車両を押収したうえで、捜査担当者に引き渡して法的手続きを進めよ」と指示していたという。
被害者の男性は、バイクが消えた朝のことをこう振り返る。「鍵をかけずに置いていた自分も悪い。でも、まさか他県まで乗って行かれるとは思わなかった」。1カ月ぶりに戻ってきた愛車は、燃料タンクが空の状態だった。
SNSでは事件の顛末に反応が集まった。「盗んだ物を押して歩くという発想がすごい」「パタヤまで行ってガス欠で捕まるとは、脚本家でも書けない」「恋人はこの間ずっと後ろに乗っていたのか」といった趣旨の書き込みが並んだ。
タイでは鍵をかけないバイクが日常的に路上に停められている。盗む側も盗まれる側も、どこか肩の力が抜けている。ただし燃料代だけは、誰にも肩代わりしてもらえない。