
隣家の鶏が、毎日のように車の上にフンを落とす。その苛立ちが刃物にまで至り、男は14年間逃げ続けた。捕まったとき、彼は77歳になっていた。
逮捕されたのは、ブンソン容疑者(77)。8月22日、バンコク・バーンラック区の病院前で警察官に取り囲まれた。持病の通院記録をたどられ、待ち伏せされたのである。
2012年11月14日、その日に何があったか
ことの発端は、仏暦2555年(西暦2012年)11月14日にさかのぼる。舞台は同じ住宅コミュニティ。被害者が飼っていた鶏が、ブンソン容疑者の車の上に繰り返しフンを落としていたという。
警察によれば、この摩擦が積み重なった末に、刃物を使った暴行事件に発展した。被害者は重傷を負っている。ミンブリー県裁判所が逮捕状を出したが、容疑者はそのまま姿を消した。
14年。逮捕状が出てから、被害者の傷が癒え、鶏の寿命が何世代も入れ替わるほどの時間が流れた。その間、容疑者は63歳から77歳になった。
「もみ合ううちに、相手が倒れて刺さった」
取り調べで、ブンソン容疑者は独自の説明をしている。刃物は「もみ合いのなかで奪い取ったもの」であり、「相手が倒れた拍子に刺さった」というのだ。そのうえで、怖くなって逃げたと述べているという。
14年分の弁明としては、いささか短い。適用された罪は殺人未遂と、人が多く集まる場所での刃物の不法携帯である。
捕まった場所が病院だったことも、この事件の後味を決めている。逃亡生活を支えたのは若さではなく、通院の必要がある体だった。そして最後は、その通院記録が居場所を教えた。
SNSは「鶏」に食いついた
タイのSNSでは、動機の部分に反応が集中した。「鶏のフンで14年逃げるのか」「洗車代のほうが安かったのでは」「77歳で逮捕状が生きているのが怖い」といった趣旨の書き込みが、次々と並んだ。
もっとも、笑い話で済ませられる事件ではない。被害者は重傷を負い、14年間、加害者が野放しである状態を生きてきた。タイの逮捕状には、多くの罪で20年前後の時効が設定されている。今回は、その期限の内側でぎりぎり間に合った形だ。
隣人トラブルはどこの国にもある。ただ、タイでは庭先で鶏を飼う家がまだ珍しくない。車のボンネットの上に落ちた一つのフンが、14年の逃亡につながることもある。