深夜、静まり返った村に「ゴゴゴッ」という鈍い音が響いた。次の瞬間、積み上げられた砂袋の壁が崩れ、濁流が一気に住宅街へなだれ込んだ。
タイ中部アーントーン県パモク郡ポーンペーン地区第5村のポーンペーン水門付近で発生したこの堤防決壊により、98世帯が水没する事態となった。
水位は2〜3メートル、養殖池も全滅
現地では砂袋を積み上げた仮設の堤防が、上流から流れ込む水量の増加に耐えきれず崩壊した。住宅地には一気に高さ2〜3メートルの水が押し寄せ、住民らは着の身着のままで避難を余儀なくされた。
被害は住宅だけにとどまらない。地域で営まれていたカエルの養殖池も濁流にのみ込まれ、3000〜4000匹のオタマジャクシが流出し、窒息死したとみられる。養殖業を営む住民にとっては生活の糧を一夜にして失う打撃となった。
地元メディアの取材に応じた消防団員は「この地区では過去にも同じ場所で堤防が決壊したことがある。繰り返される被害に、住民の間では『またか』という諦めの声も出ている」と語った。
第2防御ラインを急きょ構築
アーントーン県当局は決壊直後、下流のパモク橋付近に土のうを積み増し、新たな仮設堤防による「第2防御ライン」の構築を急いだ。あわせて、上流のチャオプラヤダムからの放流量も毎秒2500立方メートルに引き上げられており、今後さらに水位が上昇する懸念も残る。
タイ気象局は今月4〜7日にかけて中部地方で再び雨量が増加すると予報しており、住民の間には不安が広がっている。
SNS上では、決壊の瞬間を収めたとみられる映像が拡散し、次のような声が寄せられた。
・「同じ場所がまた決壊するなんて、恒久的な堤防を造ってほしい」(出所:Facebook)
・「せめてカエル養殖業者への補償を急いでほしい」(出所:X)
・「深夜に濁流が来たら逃げ遅れる。早期警報システムの強化が必要」(出所:Facebook)
長期化する中部の水害
アーントーン県はチャオプラヤ川沿いに位置し、例年雨期には浸水被害が報告される地域だが、今回のように短時間で住宅街まで水没する規模の被害はまれだという。県当局は仮設堤防の強度不足を認め、今後は土のうに加えて鋼製の仮設壁の導入も検討するとしている。住民からは「毎年同じことの繰り返し。抜本的な対策を」との切実な声が上がっている。
被災した住民の多くは、近隣の寺院や学校に設けられた避難所への一時避難を余儀なくされている。炊き出しのボランティアに加わった近隣住民の女性は「家財道具を失った人も多い。せめて食事だけでも温かいものを届けたい」と話し、地域ぐるみの支援が広がっている様子もうかがえた。県知事は近く被災地を視察し、罹災証明の発行や生活再建支援の手続きを急ぐ方針を示している。